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西暦2020年12月31日 13:00 東京のはずれ 「おねえちゃんだあれ?」 拘束衣を着せられた佐藤が、ガラス玉のような目をして二曹に尋ねる。 普段であればこの先に待っていたのは制裁だが、今は違う。 未だかつて誰もみたことのない優しい表情を浮かべ、彼の頭を撫でる。 「彼はいつ頃“帰ってくる”のですか?」 その様子をマジックミラー越しに眺めつつ、鈴木は医師に尋ねた。 「照明を消せば今すぐにでも帰ってきますよ。 まあ、手に負えないほどに錯乱してしまいますがね」 佐藤の一挙一動を監視しつつ医師は答える。 「彼はこの世界に来てから、ずっと連戦を続けてきていました。 以前にも一度、重傷を負った事もあります。 なぜ今回に限って?」 「よほど恐ろしい目にあったのでしょう。 あるいは、自我を崩壊させかねない、何か衝撃的な経験をしたのかもしれません」 「それで自分の精神を守るために?」 「状況から察すると、そうですね」 医師はカルテを手に取った。 彼は精神医学が専門ではあったが、それ以外の知識を持ち合わせていないわけではなかった。 「彼は現代医学の限界に挑戦するような重傷を負って野戦病院に担ぎ込まれました。 そこで応急処置を行われ、すぐさま空路で第一基地の自衛隊病院へ」 あまりにも大量の履歴が記載されているため、その次を告げるにはページをめくる必要があった。 「途中何度も心停止と蘇生処置を繰り返し、その後は緊急手術の連続。 そして一週間の意識不明状態。 これで何の異常も出なければ、その方がおかしい」 「ですが脳に障害は出ていなかったはずです」 事前に調査した記録を元に鈴木が尋ねる。 「ええ、私もそう聞いています。 ですが、彼の場合は脳の損傷や障害が原因ではありません。 何か強いショックが原因で、およそ10歳の頃まで意識が退行してしまっているのです」 ミラーの向こうでは、二曹に促されてベッドに入る佐藤の姿がある。 二曹は立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。 「現役復帰は難しいですか?」 しばらく沈黙していた鈴木が尋ねる。 「現状では難しい、としか回答できませんな。 先ほどもいいましたように、今の彼は10歳の少年も同然なのです。 何かのショックで元に戻ったとして、もう大丈夫と断言できる材料がありません」 二曹はドアのところで立ち止まり、壁にある照明のスイッチへと手を近づける。 「いかん!」 医師が叫ぶのと、病室の照明が消えるのは同時だった。 「わぁぁああっぁああぁああ!!!!」 佐藤の絶叫が病室に響き渡る。 「殺せ!殺せ!!撃つんだ!早くしろ!!」 未だ意識が戦場にある佐藤は、絶叫しつつベッドを引き倒し、即席の遮蔽物の陰に隠れる。 「二曹はどこだ!敵はどこだ!銃をくれ!!増援はどこなんだよぉぉぉ!!」 「一尉!自分はここです!一尉!!」 二曹が駆け寄ると同時に看護員たちが照明をつけ、警棒を構えて室内へとなだれ込む。 「乱暴はやめてください!」 暴れる佐藤を押さえ込みつつ二曹が叫ぶ。 「どういうことなんですか、これは?」 呆然としつつ、鈴木は医師に尋ねた。 「最初にも少しいいましたが、陸上自衛隊一等陸尉の彼は、暗闇の中でだけ戻ってきます。 まあ、ごらんの通りひどい錯乱状態でして、格闘技の心得を持っている事からうかつに鎮静剤を投与する事もできないのです」 全身を使って必死に押さえ込む二曹から逃れようと、佐藤は必死に体をよじっている。 しかし、明るくなったせいかその動きは次第に緩慢になり、そして遂に彼は抵抗をやめた。 「今日は随分と早く落ち着きました。 同僚に会わせるというのは、彼の状況からすると良くないと思っていたのですが、どうやらプラスに働いたようですな」 あくまでも冷静に所見を述べつつ、医師は鎮静剤を持って病室へと向かおうとする。 「私も彼に会う事はできるでしょうか?」 その後ろ姿へ鈴木は声をかけた。 「まあ構いませんが、恐らく貴方の事を誰だか認識できないと思いますよ」 「それでもいいのです」 鈴木は一旦言葉を切り、服装を正した。 「私は日本人の一人として、彼に礼を言わなくてはならないのです」 西暦2020年12月31日 13:05 佐藤の病室 「ふむ、やはりDプラス、いや、これは・・・E!」 病室へ入った彼らの耳に入ったのは、明らかに自分を取り戻した佐藤の言葉だった。 彼の言葉は、涙を流しつつ彼の事を抱擁している二曹へと向けられている。 「良かった、本当に良かった」 彼のコメントは普段であれば大変な事になる内容だったが、二曹はそのような些細な事を気にする必要性を感じていなかった。 「これはまた、医師を辞めたくなる瞬間ですな」 どこか嬉しそうに医師は言い、そして鈴木の方を見た。 「どうやら、気持ち良く御礼が言える状況になったようですよ」 「お久しぶりですね佐藤一尉」 未だに二曹に抱きしめられている佐藤に、鈴木は声をかけた。 「ああどうも、お久しぶりです」 先ほどまで錯乱していたはずなのに、佐藤はいつもの調子で答えた。 「どうやら、私は怪我だけではない状態で収容されていたようですね」 着せられた拘束衣をちらりと見つつ、佐藤は恥ずかしそうに言った。 「あまり醜態を晒していないのであればいいのですが。 二曹、そろそろ離れてくれ、そうでないとマイサンが大変な事をしてしまいそうだ」 佐藤の言葉に、二曹は顔を赤くして離れる。 「いやはや、久しぶりに文明的なところに来た気分ですよ。 それで、私はいつ退院できるんですか?」 「申し訳ないが、しばらくは経過観察をさせていただく必要があります。 大変恐縮ですが、ご了承願いますよ」 医師は申し訳なさそうに、しかし有無を言わせない口調でそう告げた。 こういったケースの場合、本人の申告だけでは許可を出す事はできないのだ。 「まあ、休暇だと思って休みますよ」 「そうしてください」 それまで沈黙を守っていた鈴木は口を開いた。 「貴方は上官が人事院から直接叱られるほどに休養が少なすぎました。 傷が癒え、現役復帰が許可されるまでの期間、ゆっくりと休んでください」 「そうしますよ。随分と、休んでいない気がしますからね」 「ええ、それで、ものは相談なのですが」 鈴木はニヤリと笑い、佐藤の目を見た。 「日本国のために、もう少しだけ体を張っていただく事はできませんか? いえ、もちろん簡単な事ですよ?」 「体一つで異世界を平定してこいとかは勘弁してくださいね。 もちろん護衛最低限の大使館武官とかも嫌ですよ」 「いえいえいえいえ、もっと簡単な事ですよ」 鈴木はその笑みをさらに深めた。 平たく言えば、それは悪魔の笑みのようなものだった。
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午後8時 サイフェルバン北東沖80マイル地点 アメリカ艦隊は、サイフェルバン沖に急遽、増援艦隊を派遣した。 サイフェルバン沖には重巡洋艦サンフランシスコ、軽巡洋艦ブルックリン、ホノルル、 駆逐艦5隻が二手に分かれて警戒に当たっていたが、スプルーアンス大将はレキシントン偵察機の 報告を受けるや、護衛部隊から戦艦3隻、重巡3隻、軽巡2隻、駆逐艦6隻を抽出し、 増援に向かわせた。 午後7時30分、警戒部隊は増援部隊と共に、再び二手に分かれて警戒に当たった。 まず沿岸から距離30マイルの海域まで警戒するA部隊、次に30マイルから60マイルの距離を 警戒するB部隊に分かれた。 A部隊は戦艦アイオワ、重巡洋艦ウィチタ、キャンベラ、軽巡洋艦オークランド、ホノルル、 駆逐艦モンセイ、ゲスト、ヤーノール、ベネット、セルフブリッジ、バグリーの計11隻。 B部隊は戦艦ワシントン、サウスダコタ、重巡洋艦サンフランシスコ、ニューオーリンズ、 軽巡洋艦ブルックリン、モントピーリア、駆逐艦バターソン、フラム、ハドソン、カニンガム、 トワイニングの計11隻。 合計22隻の艦隊がバーマント第3艦隊を待ち構えた。 戦艦アイオワに座乗している迎撃部隊司令官のウイリス・リー中将は司令官席に座っていた。 その表情は微かに緩んでいる。 「どうかされたのですか、司令官?」 艦長のハンス・ブラック大佐が訝しげに聞いてきた。 「艦長、わからんのかね?艦隊決戦だよ。この世界に来てこの軍艦の使いどころは大して無いだろうと 確信していたが、敵も大したものだ。戦艦を持ち出してくるとは。」 リー中将は笑みを消して真顔でそう言った。それ以前に、バーマント軍が意外に強力な海軍を持ち、 戦艦も保有していることはオブザーバーと話したときに聞いている。 だが、リーはどうせこっちの軍艦を恐れて1隻も出てこないのではないかと思っていた。 だが、敵は出てきた。それも2度も。 1度目は巡洋艦クラスの艦を基幹とした艦隊で、警戒部隊の艦隊に撃滅されたが、警戒部隊も軽巡2隻、 駆逐艦1隻を大破させられ、戦列を離れている。 そして今回は戦艦である。大艦巨砲主義者であるリー中将は、久しぶりに戦艦同士の砲撃戦が 起こりそうな気配に満足している。 ウイリス・リー中将はレーダー射撃の権威としても知られている。それに実戦経験も積んでいる。 ガダルカナル島を巡る戦いでは、戦艦ワシントンとサウスダコタを指揮し、サウスダコタが集中砲火 を浴びて叩きのめされたが、ワシントンで戦艦霧島を撃沈すると言う戦果を挙げている。 あの時の興奮は、未だに根強く残っている。そしてその興奮を再び味わえることができるのだ。 彼はそう思うと、身震いした。 司令官、このアイオワの16インチ砲がいよいよ敵に向かって放たれる時がやってきましたな。」 「ああ。敵戦艦、正確には重武装戦列間と言うが、情報によると33・8センチ砲を持っているらしい。 それも8門だ。あのザイリン級とやらは5年前に次々と竣工してから各地の侵略戦争でそれなりの働き をしてきているようだ。」 「と、言うことは、相手も実戦を大分積んでいることになりますね。」 「そうだ。敵戦艦が何隻いるかは分からないが、それでも我々のほうが遥かに有利だろう。 夜間では砲戦距離も2万メートルほどに下がるが、こっちは16インチ、あっちは13インチだ。 なめてかからなければ、負けはしない。」 リー中将は自信たっぷりの表情でそう言った。彼がそう思うのも無理はない。 旗艦のアイオワは1943年1月に竣工した最新鋭戦艦である。 主砲はこれまでの16インチとは異なる50口径の長砲身砲で、威力が従来の砲よりアップしている。 それに33ノットの快速を発揮できる。 それに残りの戦艦ワシントン、サウスダコタも開戦前後に竣工した新鋭戦艦であり、実戦も経験している。 こちらはスピードが28ノットとアイオワより一段劣るが、それでもバーマント軍の戦列艦よりは優れている。 このスピード差で敵艦にT字を描き、全主砲で撃ちまくれば、敵重武装戦列艦は全て撃破できる。リーはそう確信している。 「まもなく敵艦が来る頃だろう。さあ、戦いが始まるぞ。気を引き締めておけよ。」 リーは強い口調で皆に向けて言った。 午後8時、A部隊旗艦アイオワのレーダーが敵艦隊を捉えた。 「CICより報告。敵艦隊発見、針路は南、距離25マイル。艦種は不明。」 彼はそう聞くと、すぐさまB部隊に連絡を取った。 「こちらA部隊だ。敵艦隊を発見した。敵はまっすぐこっちに向かっている。こちらの位置は沿岸より30マイル地点だ。」 「こちらB部隊、我が部隊はそちらより15マイル離れている。現場到着までは約25分ほどかかります。」 「OK、できる限り急いで来てくれ。」 リーはそう言うと無線のマイクを元に戻した。その直後にCICから第2報が入った。 「敵艦隊は戦艦クラス5、巡洋艦クラス6、駆逐艦クラス12、さらに後続に巡洋艦クラス3、駆逐艦クラス8の艦隊あり。 なお、敵艦隊はこちらに向けて針路を変更。」 「高速艦を分離したか。よし、これより戦闘に入る。敵戦艦を伴う艦隊をアルファ、 高速艦部隊をベータと呼ぶ。」 この時を境に、米艦隊は警戒運動をやめ、敵艦隊に向かった。 A部隊に随伴する軽巡ホノルルとリノは、ゆっくりと戦艦、重巡列から離れ始めた。 敵の高速艦の突撃に備えるためである。 距離が18マイルになった時、敵戦艦が発砲してきた。そして米艦隊の頭上にぱあっと光が沸きあがった。 「敵艦、照明弾を使用!」 「面舵一杯!」 リーはすぐさま叫んだ。艦長がこれを操舵員に伝える。 やがて、アイオワの艦首が波を切り裂きながら、次第に右舷に回頭をしはじめた。 速度は30ノット。米艦隊は敵の頭を押さえる形になりつつあった。 「敵アルファより巡洋艦、駆逐艦クラスの艦が分離、我が艦隊の後方に回ろうとしています!」 リーは舌打ちした。せめてB部隊が到着するまで待てばよかったかな?その思いが頭をよぎった。 だが、B部隊も向かっているから、不利な状況はすぐに挽回されるはず。 そう思ったリーは新たな命令を下した。 「ウィチタとキャンベラを分離させろ!敵巡洋艦、駆逐艦クラスを迎撃。戦艦クラスはわがアイオワが引き受ける!」 彼の命令が伝わると、後続のウィチタとキャンベラは、後方に回りこもうとしている敵巡洋艦、駆逐艦に向かっていった。 「敵艦回頭!」 レーダーに映るバーマント艦がアイオワと並ぶように向きを変えた。 その艦影はうっすらとだが、確認できた。 照明弾に映し出されたその形は、意外にほっそりとして、スマートな形だった。艦橋はどことなく ニューメキシコ級のような感がある。煙突は3つあり、砲塔は前部に2基、後部に2基背負い式に配置している。 「左主砲戦!距離17マイル、速力23ノット!目標、敵1番艦!」 リーは凛とした口調で次々に指示を与える。3つの巨大な16インチ砲塔が、敵艦に向けられる。 主砲が生き物のように仰角を上げられる。 (アイオワよ。お前の力を見せ付けてやれ。) リーは心の中でそう呟いた。 「発射準備よし!」 「撃て!」 リーが命じた瞬間、各砲塔の1番砲が咆哮した。ズドオーン!という大音響が鳴り響き、戦艦特有の発射音が海面を轟かせた。 その時、回頭を終えた敵艦隊も一斉に撃ち始めた。 アイオワが各砲塔1門ずつの交互撃ち方とは違い、バーマント側はいきなり全門斉射である。 シュー!という砲弾特有のうなり声が聞こえた、と思った瞬間、それは通り過ぎて行った。 アイオワの右舷側の海面2000メートル付近に多数の水柱が上がった。 「照準が甘いな。」 リーはバーマント側の射撃に対してそう評価した。 「弾着、今!」 敵1番艦の左舷側に3本の水柱が立ち上がった。25秒後に2番砲が唸った。その5秒後に敵艦隊が第2斉射を放ってきた。 アイオワの第2弾は敵1番艦の左舷側に着弾した。敵の砲弾はまたアイオワを飛び越えていった。 3番砲が放たれた。第3弾はまたしても敵1番艦の左舷側に着弾したが、弾着は400メートル手前に迫っている。 「よし、いいぞ。その調子だ。」 リーは精度が上がっていることに満足した。敵艦隊の第3弾が、今度はアイオワの左舷側に海面に着弾し、高々と水柱を上げた。 だが、距離は1500メートルとまだ大分離れている。 「これじゃ落第だな。」 リーは思わずそう呟いた。1番砲が再び咆哮した。 今度も弾着は敵1番艦の左舷側400メートル付近に落下した。 (あと1射か2射で夾叉が出るかも知れんな) リーはそう思った。アイオワのレーダー射撃は大分精度を増している。現に弾着は敵艦に近寄りつつある。 アイオワの2番砲が火を噴いた。そして、弾着した。敵1番艦の左舷に1本、右舷に2本の水柱が立ち上がった。 「よし!夾叉を得たぞ!」 リー中将は満足げな口調でそう叫んだ。この時、敵の第4斉射がアイオワの右舷側海面に落下してきた。距離は約800メートル。 第1斉射に比べれば、少しだが良くなっている。敵も照準を修正しながら撃っているのだ。 「早めに敵艦を減らさんと、こっちが危ないな。」 艦長が双眼鏡を見ながらそう呟いた。 3番砲が咆哮した。右舷側に2本、左舷側に1本、先と変わらない。 だがもはや命中弾を出すのは時間の問題である。 そして25秒後、1番砲が再び咆哮した。 砲弾はまっしぐらに敵艦に向かっていき、そして待望の光景が目の前に現れた。 敵艦の左舷側に2本の水柱が高々と立ち上がり、次に敵艦の中央部から命中弾の閃光が走った。 この時、リーは思った。 (もしかして、敵は魔法使いを乗せて防御の強化を図っているのでは?) 彼は第1次サイフェルバン沖海戦で起きた出来事を思い出した。 あの時はモービルとデンヴァーが敵の魔法防御によって何発かの砲弾が無力化されている。 危惧は現実となった。命中と共に閃光の中に薄い緑色の光が混じっていた。 「くそ!敵艦は魔法防御を施しているぞ!」 艦長がうめくように言う。だが、いくら魔法防御とはいえ、それを打ち破ることは可能だ。 「一斉撃ち方!」 頃合いよしと判断した艦長は、ついに9門斉射に踏み切った。 砲の修正のため、しばらくアイオワは沈黙した。 その間に敵艦の第5斉射が襲ってきた。第5斉射はアイオワの左舷500メートル付近に落下した。 合計で40本はある。 「あんなのをまともに食らったら、アイオワといえどもひとたまりもない。」 リー中将は眉をひそめた。水柱が崩れ落ちると同時に、斉射が放たれた。 バゴオオーーーン!!という先とは比べもにならない轟音と衝撃が、アイオワをゆさぶり、わずかながら右舷に傾いた。 敵1番艦の周りにドカドカと水柱が立ち上がり、その中に3つの閃光が走った。 「3弾命中!」 第1斉射から40秒後に第2斉射が放たれた。今度は2発が命中した。 そして命中の瞬間、何かの破片も一緒に舞い上がった。 「よし、魔法防御を打ち破ったぞ!どんどんいけ!」 リー中将は興奮してそう叫んだ。と、その時、敵艦隊の砲弾が降ってきた。 そして着弾した時、6本の水柱が反対側の右舷に立ち上がった。 「いかんな、夾叉されたぞ。」 リー中将は眉をひそめてそう呟いた。とりあえず、B部隊が来るまでに持ちこたえねば。 B部隊はあと10分ほどで現場海域に到着すると言う。 その時、敵艦隊の前方からこれまで以上に早いスピードでアイオワの右舷に回り込もうとする艦がいた。 それも10隻以上もいる。 「まずい、ベータ艦隊だ!」 28ノット以上のスピードで飛び出してきたベータ艦隊は、あっという間にアイオワの右舷側に回り込もうとした。 照明弾を放って視界を明るくすると、距離10マイルで前部の14・3センチ砲を放ってきた。 「右舷両用砲、目標敵高速船1番、撃ち方始め!」 右舷の5基の連装砲が4秒おきに咆哮し、無数の5インチ砲弾を敵艦に叩きつける。 敵のベータ艦隊に砲撃を開始して2分が経過した。 両用砲弾4発が、立て続けに高速戦列艦に命中した。5インチ砲の猛烈な弾幕は、敵のベータ艦隊を寄せ付けなかったが、 リーが安堵しかけた次の瞬間、ガーン!という強い衝撃がアイオワを揺さぶった。 「敵弾被弾!左舷第1両用砲使用不能!」 バーマント重武装戦列艦が放った砲弾がついに命中したのである 。命中弾数は5発、そのうち4発はまとまって中央部に命中したが、いずれも分厚い装甲版を抜けなかった。 5発目が1番両用砲を叩き潰した。 だが、アイオワも負けてはいない、9門の長砲身16インチ砲が大音響と共に咆哮する。 3発が敵1番艦に叩きつけられた。そして敵1番艦が中央部から火災を起こした。 「敵1番艦火災発生!」 「よし、いいぞ。その調子だ。」 アイオワは30から33ノットにスピードを上げて、バーマント艦隊の頭を抑えにかかった。 一方、右舷の両用砲と砲戦を行っていたベータ艦隊は、28ノットの猛スピードで通り過ぎていった。 この間、敵1番艦に8発、2番艦5発の5インチ砲弾が命中していた。 アイオワは12発の14・3センチ砲弾、6発の9センチ砲弾が命中し、40ミリ機銃座3基が破損したものの、 幸いにも両用砲は全て無事である。 33ノットの韋駄天ぶりを発揮し始めたアイオワは、3分後には敵1番艦の頭を抑えかけていた。 このため、バーマント艦隊は前部の砲しか撃てなくなっていた。 一方、アイオワは全門斉射を続け、合計で7発の16インチ砲弾が敵1番艦に叩きつけられていた。 バーマント第3艦隊司令官であるバーミワンム中将は、33ノットで頭を抑えようとするアイオワを睨みつけていた。 バーミワンム中将はヴァルレキュアと開戦する6ヶ月前にこのバーマントでも最も打撃力に勝る 第3艦隊の司令官に任命された。 任命されて当初は少将だったが、ヴァルレキュア戦では指揮下の第3艦隊を縦横無尽に操って数々の武勲を挙げた。 その功績によって4ヶ月前に中将に昇進した。 バーミワンム中将は、今回の出撃に関してはなんら不安も無かった。 第2艦隊の生き残りの証言を聞いても、 「このザイリン級の砲戦力には遠く及ぶまい。それに敵の警戒部隊はたったの10隻というではないか。 こっちは30隻以上はいる。10隻そこらの艦隊など、包囲して袋叩きにしてやる。」 と息巻いている。それに彼は積極果敢な提督であるため、以前からサイフェルバンに艦隊を進めようと 思っていたが、海軍上層部は一向に許可を出さなかった。 だが、4日前にようやく出撃命令が出た時には、彼は大喜びした。 そしてこの日の午後3時に軍港を出撃したのである。 だが、彼の余裕は、1隻の戦艦によって完全に吹き飛んでしまった。 突如目の前に立ちはだかった敵艦隊は、それぞれ分離していき、ついにはザイリン級のネームシップ であるザイリンとグラングス、エリーブ、グリルバン、ファルアットの5隻と、敵のやたらにどでかい 戦艦1隻のみとなっていた。 初め、照明弾に移された米戦艦を見た時、提督はその洗練された形に思わず見とれてしまった。 ほっそりしながらも、力強そうな印象を持ち、中央部には尖塔のような艦橋、そしてコンパクトに まとめられた2本の煙突、そして3基の巨大な砲塔。 艦体の中央部にこれでもかとばかりに取り付けられた副砲群、どれもこれもこの次元の物ではない。 そしてその巨大さたるや、まるで化け物である。 そして砲撃戦が始まって既に20分、旗艦のザイリンは中央部に4発、後部に3発の命中弾を受けていた。 その1発1発がこれまでに経験したことのない凄まじい物だった。 この砲撃で3本の煙突のうちの1本が根元から叩き潰され、右舷の副砲6門は5門までもが破壊され、 後部の第3主砲は16インチ砲弾によって叩きのめされ、沈黙している。 魔法防御を施していた魔道師は、最初の4発の着弾ですぐに限界を来たし、 今や自らの装甲でなんとか持ちこたえている有様である。 高速艦部隊が、右舷側に回り込んで、無数の砲弾を浴びせたものの、米戦艦はそれでも応えずに、 バーマント艦列の行く手を遮ろうとしている。 「取り舵!取り舵いっぱい!」 艦長が叫ぶ。操舵係が必死の形相で舵を回す。 その間にも、米戦艦は砲撃を浴びせてきた。ヒューッ!という空気を切る音が極限に達した、と思ったとき、 ドドーン!というもの凄い衝撃がザイリンの艦体を揺さぶった。後続艦も負けじと前部のみの主砲を打ち返す。 命中弾はザイリンの3番目の煙突を根元から吹き飛ばし、艦内で炸裂した。 「艦中央部の火災拡大!」 応急班の悲痛な報告が届く。このまま行けば、艦中枢の機関部もやられるかもしれない。 今のところ、奇跡的に機関室はまだやられていない。 だが、今後も機関室が無事だという保証は無い。 味方の弾着が敵戦艦の周囲で着弾した。3発の砲弾が前部砲塔、中央部、後部と満遍なく命中した。 その内、中央部からちろちろと火災のようなものも見えた。 だが、敵戦艦はスピードを全く緩めない。また新たな砲撃を放った。 今度は2発がザイリンの後部を叩き据えた。この被弾で、早くも後部砲塔は完全に使い物にならなくなった。 砲戦開始わずか21分でザイリンは50%の戦闘力を失ったのだ。 バーミワンム中将は敵艦が悪魔の化身のように見え、ぞっとした。 ザイリンや他の戦列艦も負けずに打ち返す。敵艦にも新たに4発が命中した。その時敵艦の中央部から別の閃光が走った。 目立った損傷の無かった敵艦から明らかに火災炎が吹き出ている。 「やったぞ!敵艦に手傷を負わせたんだ!」 この時、33.8センチ砲弾の1発が左舷2番両用砲を直撃した。砲弾が炸裂した際、 たまたま別の両用砲弾にも引火し、一気に10発以上の5インチ砲弾が誘爆したのである。 「どんどん撃ち込め!敵も所詮船だ、たらふくぶち込めばいずれ沈むぞ!!」 彼は小躍りしながらそう叫んだ。これに応えるかのようにザイリンの前部4門、 後続艦の主砲が次の砲弾をぶっ放す。 だが、敵艦もだまれと言わんばかりに新たな砲撃を行った。そして、ついにザイリンに破局が訪れた。 突如ガガーン!という今までに感じたことのない衝撃を感じ、バーミワンム中将を含む艦橋要員、 いや、ザイリンの乗員全員が飛び上がった。 衝撃でバーミワンム中将は床に叩きつけられた。この時、アイオワが放った砲弾は、 3発がまとまって後部に命中した。 そして砲弾のパワーは、ザイリンの第4砲塔から10メートル後ろを引きちぎったのである。 後部のスクリュー部分を叩き割られたザイリンはガクッとスピードを落とし、惰性でノロノロとしか 前に進まなくなった。ザイリンが完全に停止するのもそのすぐ後だった。 ザイリンが最後に放った砲弾は、惜しくもアイオワの後部、スクリュー付近に着弾し、 水柱を上げたに過ぎなかった。 アイオワに新たな命中弾が襲った。今度は4発の砲弾が左舷にぶち当たった。 1発は後部の第3砲塔に命中したが跳ね飛ばされた。 2発は中央部に命中し、火災を一層ひどくさせた。1発は2つある煙突のうち、後ろのほうの根元に命中した。 この被弾で煙突は破片でずたずたに引き裂かれた。 アイオワが級にスピードを落とし始めた。今まで33ノットの快速で突っ走っていたアイオワだが、 いきなり減速を始めたのだ。 「どうしたのだ、艦長?」 リー中将は艦長に聞いたが、艦長も突然の事に理解できなかった。 「敵1番艦大破!後部付近に大火災!!」 見張りの上ずった声が聞こえた。敵1番艦は、艦の後部から火災を発生させている。 双眼鏡でよく見ると後ろの一部が千切れてなくなっている。それに微かながらだが、 後部にやや傾いている。今は判断できないが、恐らく撃沈に近い損害を与えたに違いない。 それに急速にスピードを落としており、停止するのも時間の問題である。 「敵1番艦戦闘不能!」 艦長の言葉に、アイオワの艦内は沸き立った。初めての砲戦で敵戦艦を叩きのめしたのである。 これが異世界の軍艦であろうと、喜びは大きかった。 「浮かれるのはまだ早い!」 リーは荒々しく声を上げた。いつもは冷静沈着な彼には珍しかった。 「敵艦はまだ4隻いる!それにワシントンとサウスダコタはまだ到着してはいないぞ。 B部隊が来るまで気を抜くな!」 リーの声によって、喜びに満ちていた艦橋内は再び元の状態に戻った。そこに電話がかかってきた。 艦長は急いでそれに飛びつく。 すると、なぜか艦長の表情がみるみるうちに変わっていく。もしかして、この急な速度低下に関係があるのでは? 彼は思い立った。そして艦長が電話を置くと、リーに何事かを説明し始めた。 「閣下、先の被弾で、艦尾付近の至近弾がありましたが、実はその至近弾の影響で、 左舷側のスクリューが2基とも破損し、先ほどから1度も回転していないのです。」 「何だと!?」 リーは思わず絶句した。実はこの時、撃破されたザイリンの砲弾は、アイオワの艦尾にあるスクリューを痛めつけていたのだ。 爆圧によって捻じ曲げられた2つのスクリューは電器系統を断ち切られ、本来の活動を停止してしまった。 これにより、アイオワのスピードは一気に22ノットまで低下したのである。 「起きてしまったことは仕方がない。速度が低下せれども、こっちにはまだ9門の16インチ砲があるんだ。 やれるだけやってみるぞ。」 アイオワがバーマント軍の5隻の大型艦相手に奮戦している間、重巡洋艦のウィチタとキャンベラ、 軽巡洋艦ホノルルもまた、不利な戦いを強いられていた。 本来ならば、軽巡オークランド率いる水雷戦隊がバーマント軍の小型戦列艦を叩きのめして、 6隻の中型戦列艦を相手にするはずだったが、12隻の小型戦列艦はなかなか侮れなかった。 最初の距離4000での魚雷攻撃で2隻の敵艦を撃沈したが、敵もさるもので集中射撃で 駆逐艦セルフブリッジが避退中に敵弾7発を受け、速度が低下したところに集中射撃を受けて大破した。 米水雷戦隊は再び反転してセルフブリッジを叩きのめした小型戦列艦相手に真っ向から向き合い、 激しく打ち合った。 米艦艇の中では、一番オークランドの射撃が凄まじかった。5インチ連装砲を前部に3基、 後部に3基、計12門の集中射撃は、あっという間に1隻の小型戦列艦を叩きのめし、1隻を撃沈した。 バーマント側も負けていない。 彼らも数にものを言わせた集中射撃で駆逐艦ベネットを撃沈した。 そして両者の殴り合いは今でも続いている。 こうした中、重巡ウィチタとキャンベラ、軽巡ホノルルは、最初は有利に戦いを進めていた。 バーマント軍の中型戦列艦は、17センチ連装砲を4基積んでおり、これまでの軍艦と同じように 前部に2基、後部に2基ずつ背負い式に配備し、米巡洋艦に向けて猛射していたが、 ウィチタ、キャンベラ、ホノルルは、5インチ砲が届く距離12マイルまで接近し、猛射を浴びせた。 最初は主砲のみの交互撃ち方で砲撃し、直撃弾が出ると、5インチ砲も交えた全門斉射に切り替えた。 バーマント側はこれまた同じように魔法防御で対応したが、わずか5分ほどで魔法防御は打ち破られ、 みるみるうちに被弾数が増え始めた。 砲戦開始から12分後にまず、敵の1番艦がウィチタによって全砲塔を叩き潰され、落伍した。 次いで2番艦がキャンベラの砲撃で爆発轟沈し、3番艦がホノルルの砲弾に艦橋を直撃され、 戦闘不能に陥った。 この時、米側の被害はウィチタが被弾7発で5インチ砲1門喪失、キャンベラが被弾5発で 前部の20センチ砲塔1基使用不能、ホノルルが被弾12発で前部6インチ砲塔1基が 使用不能となったが、まだまだ戦闘は可能である。 「これで勝ったぞ!」 ウィチタに司令部を置く、デイビット・バーケ少将は勝利を確信した。 だが、右舷側の別の標的に狙いをつけようとした瞬間、左舷側から別の艦隊が現れた。 それはアイオワを砲撃したが、たちまち追い払われた敵のベータ艦隊であった。 ベータ艦隊は、調子に乗って残りの中型戦列艦にT字を描こうとする3隻の後ろから追いすがってきた。 ベータ艦隊は距離9マイルに近づくや、3隻の一番後ろのホノルルに集中砲火を加えてきた。 たちまち多数の14・3センチ砲弾を叩き込まれたホノルルは、速度が低下し、23ノットにまで落ちた。 そこに手負いの獲物を狙うハイエナのごとく、8隻の小型高速戦列艦が群がり、ホノルルを滅多打ちにしてしまった。 落伍したホノルルは、それでも奮戦した。 2隻の小型戦列艦を、生き残った前部の6インチ砲や5インチ砲の釣瓶撃ちで撃沈し、1隻を中破させたが、 ホノルル自身も実に58発の9センチ砲弾を受け、敵小型戦列艦がホノルルから離れたときには、 このブルックリン級軽巡は全砲塔を沈黙させ、左舷に傾斜し、力尽きたように停止していた。 残された2隻の重巡、ウィチタとキャンベラは、敵のベータ艦隊と生き残りの中型戦列艦の集中射撃を受け、 一気に不利な体制に陥った。 だが、ウィチタとキャンベラ自慢の8インチ砲や5インチ砲を乱射しながら、荒れ狂った鬼神のように戦い続けた。 B部隊の戦艦サウスダコタ、ワシントンが砲戦に加わろうとしたとき、警戒部隊旗艦のアイオワは 敵の乱れうちにあっていた。 アイオワに砲戦を戦っている敵艦は3隻。いずれも200メートルはありそうな大型艦である。 そのずっと後方には2隻の軍艦が海面に停止し、激しく炎上している。 だが、アイオワ自身も左舷側がひどく損傷しており、既に5基の連装両用砲は破壊され、 大火災が起こっている。 砲撃を行っている砲も後部砲塔がなぜか沈黙している。砲撃を行っているのは前部だけである。 「アイオワが頑張っているが、かなりやばい状況だな。」 B部隊の指揮官であるサウスダコタ艦長のブルース・ウッドワード大佐は額に汗を浮かべながら そう呟いた。海戦は3つの海域で行われている。 まずこの戦艦同士の海戦、次に巡洋艦同士の砲戦が行われているここから8マイル南西の海域、 そして軽巡オークランドが率いる水雷戦隊と小型戦列艦が戦っているここから12マイル離れた 西の海域。 ここで死闘が繰り広げられている。やがて、増援に向かった各部隊の指令艦から報告が入ってきた。 「こちら重巡ニューオーリンズ、敵巡洋艦部隊との交戦を開始せり、既に重巡キャンベラとホノルルが 大破、落伍せり。」 「こちら駆逐艦バターソン、敵艦と戦闘を開始、軽巡オークランド、駆逐艦バグリーが大破、落伍、 駆逐艦ベネットが沈没せり。」 各艦の通報から、A部隊がどれだけ苦しい戦いを迫られていたかがよく分かる。 「戦力分散のつけが一気に来たな。」 ウッドワード大佐はしかめっ面でそう呟いた。この時、急にアイオワが右に回頭し始めた。 もはや危険な状態になりつつあるのだろう。 現に左舷側からもうもうと黒煙を噴出している。それにアイオワ自身のスピードもどことなく遅い。 彼らは知らなかったが、この時、撤退していくアイオワを見て、バーマント軍の3隻の重武装戦列艦 の乗員たちは、狂喜していた。 だが、彼らの喜びは続かなかった。先のどでかい戦艦よりは少々形は小さいが、それでも彼らの 艦より巨大な軍艦が、今度は2隻も現れたのだ。 2隻の大艦は戦列に入ってくるなりいきなり主砲をぶっ放してきた。 だが、3隻のバーマント艦もアイオワを大破させ、戦列から追い払ったため、士気は旺盛だった。 それに射撃の精度も増しているため、余計に始末が悪い。 「左主砲戦!サウスダコタ目標、敵3番艦!ワシントン目標、敵4番艦!」 ウッドワード大佐は、それぞれの目標を決めた。まず、サウスダコタは火災を上げつつも、 いまだに戦列に留まっている3番艦を狙うことにした。 「発射準備よし!」 「撃ち方始めぇ!」 各砲塔の1番砲が吼えた。その時、敵艦もサウスダコタ、ワシントンに向けて33・8センチ砲を放った。 20秒後に2番砲が撃つ。その時、風邪を切り裂く音が聞こえてきた。次の瞬間、サウスダコタの 左舷側1000メートルの海域に水柱が立ち上がった。 敵3番艦の右舷にはそれ以上の水柱が立ち上がった。 20秒後に3番砲が放たれる。その間に第2弾が落下した。位置は先とあまり変わらない位置だ。 敵バーマント艦は3番艦と4番艦がサウスダコタを、5番艦がワシントンを狙っている。 「ワシントンに1弾命中!」 見張りの声が艦橋に響いた。ワシントンが先に敵弾を浴びてしまったのである。 だが、ワシントンの装甲は敵弾の貫通を許さなかった。 第3弾が敵艦の周囲に落下した。右舷側に2本、左舷側に1本、一気に夾叉を得た。 「ようし!いいぞ、その調子だ。」 その時、砲弾が落下してきた。3、4番艦の主砲、合計12門分の砲弾がサウスダコタの周囲に ドカドカと落下してきた。ガーン!という衝撃が伝わり、35000トンの巨体は揺れ動いた。 敵弾はサウスダコタの左舷中央部に落下し、甲板上で炸裂した。 この被弾で40ミリ4連装機銃1基が叩き壊されたが、貫通しなかったので被害はそれだけである。 周囲の水柱が晴れるのを待ってから第4弾を放った。今度は敵艦を飛び越してしまった。 20秒後に第5弾が放たれた。第5弾は敵艦の周囲に落下し、再び夾叉を得た。そして次の第6弾で命中弾を得た。 敵艦の中央部にピカッと閃光が走り、中央部から猛烈な黒煙が噴出した。 「一斉撃ち方に切り替えろ!」 ウッドワード艦長はすかさずそう命令を発した。サウスダコタの主砲がしばらく鳴りを潜める。 サウスダコタが斉射を撃つ前に12発の敵弾が落下してきた。 3発がサウスダコタに命中した。1発は後部甲板の被装甲部に命中して第1甲板で炸裂し、 あたりをめちゃくちゃにぶち壊した。 2発は中央部に命中して5インチ砲1基を破壊したものの、分厚い装甲は貫けなかった。 「お返ししてやれ!」 サウスダコタの主砲が唸った。 16インチ砲9門の一斉射撃は物凄い轟音と共にサウスダコタ自身も揺さぶる。 そして距離14マイルの彼方にいる敵戦艦の周囲に、水柱が高々と上がった。そして命中弾の閃光も2つ確認した。 「2弾命中!」 水柱が晴れると、敵3番艦の後部から猛烈な黒煙が吹き出ていた。そして敵艦が発砲してきた。 敵3番艦は前部2門の主砲しか使えなくなっていた。 1発がサウスダコタの後部第3砲塔に命中した。 だが、40センチ砲弾にでも耐えられるように作られた砲塔は、敵弾をあっさりと跳ね飛ばしてしまった。 「敵4番艦も大火災!」 ワシントンの砲撃を受けている敵4番艦も後部と中央部から火災を起こしている。 だが、敵艦隊のスピードは相変わらず23ノットをキープしている。 第2斉射が放たれた。砲弾は敵3番艦の中央部に1発命中し、度重なる被弾で悲鳴を上げていた艦体は、 ここにして限界に達した。 「敵3番艦は戦闘力を失いつつある。」 ウッドワード艦長は満足げに頷いた。太平洋戦線では日本艦載機の攻撃を受けたり、敵艦の集中砲火を浴びたりなど、 いい所を見せられなかったサウスダコタだが、ここに来て自身の持つ戦闘力を十二分に発揮できている。 その事が彼は嬉しかった。 その時、敵弾が落下してきた。そして着弾の瞬間、ズガーン!という耳を劈くような轟音が聞こえた。まさか、 「敵弾4、前部に落下!第2砲塔の電路切断!砲操作不能!」 不運なことに、4発の敵弾がまとまって全部に落下したことにより、衝撃で電路が切断してしまったのである。 「残りで砲撃を続ける!敵3番艦に止めを刺すぞ!」 彼の号令の元、第3斉射が放たれる。そして、その砲弾は2発が敵3番艦を打ち据えた。 次の瞬間、敵3番艦がぶれて見えたと思うと、いきなり中央部から大爆発を起こした。 中央部から真っ二つに割れた敵3番艦は、艦首と艦尾をせり立てて、5分も立たずに海面に引き込まれていった。 「敵3番艦、轟沈!続いて敵4番艦沈黙、速度落としています!」 バーマント軍と米軍の態勢が逆転した瞬間だった。 午後9時30分、海戦は終わった。 敵重武装戦列艦の4番艦が戦闘能力を失った後、サウスダコタとワシントンは、逃げる敵5番艦を 追い越して7マイルの距離から16インチ砲を多数叩きつけて撃沈した。 この初めての激戦で、米海軍は軽巡洋艦ホノルル、駆逐艦ベネット、セルフブリッジ、 モンセイを失い、戦艦アイオワ、重巡洋艦ウィチタ、軽巡洋艦オークランド、駆逐艦モンセイが大破し、 戦艦サウスダコタ、重巡キャンベラ、軽巡モントピーリア、駆逐艦ヤーノールが中破し、 戦艦ワシントン、重巡洋艦ニューオーリンズが小破した。 これまでの戦いで、一気に4隻もの沈没艦が出たのは始めてである。 一方、健闘したバーマント第3艦隊はもっと悲惨だった。 米艦隊に立ち向かった事は確かに良かったが、性能の差はやはり埋められなかった。 重武装戦列艦5隻は全て撃沈されるか、降伏し、中型戦列艦6隻のうち、4隻が沈められ、2隻が大破している。 小型戦列艦は12隻全て失われ、3隻高速戦列艦は2隻、高速小型艦は6隻を失った。 残りの艦艇は、よろけるようにして母港へと帰っていった。 この海戦は、比較的沿岸に近い海域で行われたため、付近の住民は何事かと、 無数に明滅する海面にずっと見入っていた。 この海戦は後に第3次サイフェルバン沖海戦と呼ばれた。
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WROLD ALL(仮題) …ドイツ語のヴェルトール。 事象世界、宇宙の意。 1月1日 ア ルヘイム(鯰の故郷)というこの国は大陸西方の南部、スードと呼ばれる比較的温暖な地域を領有している国で、大昔からエルプ山脈をはさんだ北部のトイトや 西部のケルト、東部のポレなどに居を構える、ヴァナヘイム、ヴィンドヘイム、ニザヴェリルといった国々とは領土をめぐって何度も戦争を繰り返している歴史 を持つ。 大昔のスードは都市ごとに小国家が軒を連ね、争いあっていたのを300年ほど前に初代の王となるヴァーヴォル1世が統一してアルヘイムを建国したといわれており、そのような国柄もあってか、弱肉強食の実力主義が常識となっている国でもある。 他の国と何度も戦争を行い、その度に勝利してきただけあって兵器や戦術などの技術は高いものを持っているのが自慢でもある。 アルヘイムは(ほかの国も大抵そうなのだが)身分制度の強い国で、王族、貴族、士族、平民、農民の階級ごとに階層を作って社会が形成されていた。 王族と貴族が政治をつかさどり、士族が軍事を担う。 一応、専制主義国家ではあったが地方分権の色も濃いという一面も持つ。 というのも、もともとが小国家の集まりで、統一後300年たつ現在も貴族たちは地方の都市を領有してそれなりの勢力を保っている。 故に、王族の子弟が玉座を巡って争うときなどには、貴族の後ろ盾をどれだけ多く味方につけることが出来るか、というのが重要視された。 第27代目の国王であるヴィーウル4世の死去の直後、次の後継者として最も有力であったのは王弟ニューラーズ公だった。 彼は7つの地方都市領を支配する7人の大貴族の後ろ盾を得て、第28代目のアルヘイム国王として即位するはずだった。 しかし、即位の直前となって7人の大貴族のうち6名が、先王の忘れ形見である12歳になったばかりの幼い王女、ローニを新王をとして推挙、そのまま強引に即位させてしまったのである。 これには、6人の貴族たちとニューラーズ公との間に政治上の権限をめぐる衝突があったと噂されている。 ローニ女王の後見人あるいは摂政となった貴族たちは、既に成人し頑迷で自己中心的なニューラーズ公を御しがたいと判断し、まだ幼い女王を傀儡として自らの思うままに政権を握る心積もりでいたのだ。 当然、王になるはずだったニューラーズ公はこれに納得するはずがなく、唯一自分を後援するラーズスヴィズ伯とともに女王と貴族たちに対し叛乱を企てた。 しかしならが、公とラーズスヴィズ伯の持つ戦力では、既に近衛騎士団と常備軍を掌握した貴族たちに対抗できるはずもない。 どう見ても勝ち目はないはずだったが、公には勝算があった。 公は、切り札ともいえる「援軍」を配下の魔法士に命じて召喚していたのである。 その援軍とは、国外…ヴァナヘイムやヴィンドヘイム、あるいはスードの西端の小国ロガフィエルなどの周辺諸国から呼び寄せたものではなかった。 国内の紛争に外国の力を借りれば、後々面倒なことになるのはわかりきったことだ。 ただでさえ、諸外国はスードの温暖で肥沃な土地を虎視眈々と奪う機会を窺っている。 ならば、公はどこに援軍を求め、貴族たちに対抗しようとしたのか? その答えを、貴族たちは戦場で知ることになる。 近衛軍と常備軍を率いてヴァグリーズの平原へ会戦に赴いた6人の貴族たちは、そこで異様な姿かたちの軍隊を目にすることになる。 見たこともない銃や砲、そして鉄の車を使う、まだら色の服を着た異貌の集団が、そこに待っていたからだ。 修道会の本部ヴァルファズル大聖堂は三つの巨大な円錐状の建築物が寄り集まったような形をしている。 この巨大建築物は250年ほど前に当時の国王ガングレイリ2世が命じて建築が始まったもので、着工してから120年ほど経過した段階で工事が打ち切られ未完成のまま現在に至る。 建築予算が国庫に多大な負担をかけるとの理由から建築途中のまま放棄された西の塔の上部三分の一は、基礎の骨組みだけという少しみすぼらしい姿をさらしていた。 その西の塔に、私たち「姉妹」の寮は置かれていました。 今日も王都から修道会へ魔法士の援軍を求める女王の(貴族たちの、というほうが正しいかも知れない)使者達が大聖堂の城門前広場で開門を求める声を叫ぶ。 ほどなくして人の背丈の3倍はあろうかという巨大な門は開かれ、使者たちは中へと入っていった。 私はそれを寮の自室、南側に面した日当たりのいい小窓から見下ろしている。 最近はそれが、日課になりつつあった。 早駆けの馬で来る使者の一団が大聖堂に来ない日は一日とてなく、彼らが肩を落として帰ってゆかなかった日も未だなかった。 異世界軍…ジエイタイを味方につけたニューラーズ公の軍は既に貴族の支配する二つの地方都市領を攻め落とし、王都まで40里の距離まで迫っているという噂だった。 「姉妹」たちの間では、私たち「魔法士」が異世界軍と戦うことになるのかならないのか…つまりは、修道会が貴族たちに援軍を差し向ける決定を行うのか否かという話題でもちきりで、誰もが訓練や勉強に手のつかない有様…というよりは、噂話や議論のほうに夢中になっていた。 現在のところ、修道会は中立、不介入の立場をとり続けているが、将来的にどうなるのかはわからない。 大聖堂が王都のすぐそばにある以上、この場所も戦争に巻き込まれないとも限らないのだ。 「それは、無いんじゃないのかな」 『黄色の姉妹』のスルーズが唐突にそう言ったので、『赤』のミストや『黒』のスケルグが「突然何?」とでも言いたげげな顔をこちらに向ける。 『黄』の派閥に属する感応系の魔法士であるスルーズは、他人の思考を読む魔法に長けている。 彼女は、私が頭の中で考えていたことを読み取り、それに答えたのだが、ミストやスケルグにはわからない話だったので、二人は怪訝そうな顔をしたのだ。 「修道会は神聖不可侵な神の家だもの。 修道会に手出しをしたら、国中を敵に回すことになるわ。 ニューラーズ公がそんな暴挙に出るとも思えないけれど」 それを聞いて、スケルグが「なんだ、その話?」とあきれたような顔で納得する。 私も、いきなり人の思考を読んで話しかけてくるスルーズの突拍子の無さには少し呆れるものがある。 いきなり話しかけられた方はびっくりするだろうし、周りで聞いていた人たちもいきなり何を言い出したのか戸惑うだろう。 スルーズは、そのあたり天然でデリカシーに欠けているんじゃないかと思える節もある。 「そ、そんなつもりは無いんだけれどなっ…でもその言い方はひどいよっ」 彼女はまた私の思考を読んだけれど、ミストとスケルグには話が伝わってないのでわからない。 スケルグは「二人だけで会話するのやめてくれない?」と溜息をつくし、ミストに至っては何がなんだかわからず、きょとんとしている。 「…で、スヴァンは何を考えていたって?」 スケルグが書き物をしていた手を止めて、私を見る。 私の名前は本当はヒルデというのだけれど、ここの「姉妹」たちはスヴァンヒルデ…さらに前半分だけでスヴァンと呼ぶ。 スヴァンヒルデというのは御伽噺に出てくる、戦場で戦士たちを導く戦乙女の名前らしいけれど、私は自分の名前を変えられて呼ばれるのはあまり嬉しく思っていない。 もっとも、スケルグや「姉妹」たちの多くは「もともとヒルデというのはスヴァンヒルデが短くなった名前なのだからいいのよ」と言って抗議しても押し切ってしまう。 だからなんとなく、私はここではスヴァンという名前で呼ばれていた。
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「ファンタジーしてえええええええええええええ!! ファンタジーさせろおおおおおおおおおおおおおお!!!」 アキトにとっての夢の源であり、 諸人がそれぞれ夢を馳せ勇者に駆り立てた原動力である。 この日の為に俺はファンタジーな服を買い、 ついでにファイ○ルファン○ジーをやりこんだ。 上のように、これを欲する者の8割はファンタジーな服を予め購入していると言われており、 また某FFをプレイしている者も少なくはないと言われている。 勇者たるもの心意気は大事であるため、是非この2点は抑えておきたい。
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52: 303 ◆CFYEo93rhU :2017/03/29(水) 21 27 02 ID guO46a5g0 投下終了です。 プチ異文化交流ネタ? でしょうか。 自分でも設定ミスっていたり忘れたりしていたのですが、東大陸に展開する部隊名称やトップの階級について。 ・東大陸派遣軍(中将) → 東大陸軍(大将) → 東大陸方面軍(大将) ・東大陸派遣軍(中将) → ユラ神国軍団(中将) → リンド王国軍団(中将) という二系統ありました。 当初は東大陸派遣軍としてユラ神国からリンド王国を攻める部隊でしたが、リンド戦後はユラ神国軍団となり、 同格組織としてリンド王国軍団が新設(ただし実態はユラ神国軍団がそのまま移動した形)となり、 リンド防衛戦時に骨抜きとなったユラ神国軍団には軍団どころか師団規模の部隊もありません。 同時に、東大陸に展開する部隊が広域に渡り、ユラとリンドを統括する必要から東大陸軍が新設され、そこのトップが大将となります。 そして東大陸軍を改編して東大陸方面軍となります。現状では司令部のみの部隊で、当初はユラにありましたが、現在はベルグにあります。 そしてユラ神国軍団とリンド王国軍団は東大陸方面軍隷下になります。 東大陸軍の司令官は高橋大将という人でしたが、南條大将が着任する時期に東大陸軍から東大陸方面軍に格上げされました。 上級大将云々はその布石でもあります。 ただ、旧軍における上級大将と准将の設定考えていて引っかかったのですが…… 親任官:元帥(大将または上級大将) 親任官:上級大将 親任官:大将 勅任官:中将(高等官一等) 勅任官:少将(高等官二等) 奏任官:准将(高等官三等) 奏任官:大佐(高等官四等) 奏任官:中佐(高等官五等) 奏任官:少佐(高等官六等) 奏任官:大尉(高等官七等) 奏任官:中尉(高等官八等) 奏任官:少尉(高等官九等) まず大将を勅任官に下げるのも違う気がするので、そのままにすると親任官として上級大将と大将が入ってしまいます。 総理大臣もその他の国務大臣も親任官なので、親任官の間で差があっても問題無いんでしょうか。 少将と大佐の間に准将が入るので、高等官一等~九等はこうなるしか無いですよね。 准将は勅任官なのか奏任官なのかですが、陸軍であれば歩兵団長など、海軍であれば代将相当なので奏任官が妥当かな? と。 准将が勅任官だと高等官三等まで勅任官になってしまい、文官の官吏との整合性や宮中席次がこんがらがりそうです。 史実日本軍でも准将の導入を検討したという話をどこかで見た記憶があるのですが、 その場合は准将は官吏としてどういう位置になる予定だったのか興味があります。 53: 303 ◆CFYEo93rhU :2017/03/31(金) 22 19 10 ID guO46a5g0 F自創作界隈の一部では、拙作の“神賜島”のような天然資源ザクザクの島 という都合の良い設定が「資源島(方式)」と呼ばれているようですね。 これ系の設定を使っている身からして、大元ってどこだろうと思いました。 思い当たったのが山本瑞鶴氏の『大火葬戦史R』という小説で、関東大震災で東京湾に資源ザクザクの陸地が隆起してきた。という設定です。 これと映画『海底軍艦』の轟天建武隊基地となっていた黄鉄鉱、ボーキサイト、マンガン……の島の設定から、拙作の神賜島の設定が固まりました。 『大火葬戦史R』については、今まで言及した事が無かったと思いますが、この設定に限れば『皇国召喚』への影響大です。 『大火葬戦史R』自体は、異世界転移ものではなく古き良き(?)日米戦争ものなのですが、 日本の天然資源不足を解消するチートという意味では、お手本のような設定だと思います。 というか私はお手本にさせていただきました。 異世界転移に際して“本土の近くに巨大な島が出現”という意味では『帝國召喚』の神州大陸を モデルにしたので、拙作の“神賜島”はそれらの設定を継ぎ接ぎして創らせて貰ったものです。 単に読んで楽しませて貰ったという以上に、先人の作品に感謝感謝です。 雑談はこの辺で、本日は本編の続きを投下します。 確認しているつもりなのですが、以前投下したものの二重投下でありませんように……。
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誰かうpお願い
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792 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/05/29(金) 23 10 12 ID MgldbMPc0 励ましの言葉を有り難うございます。 自分のペースで完結を目指したいと思います。 現状では、「西大陸編」の完結で一応の完結。 余力があれば「東大陸編」に手を付けたいと考えています。 783 売却用は50万丁と云う事は三八式でしょうか? 皇国が売却したいのは三八式歩兵銃ですね。銃本体、弾薬、予備部品なども潤沢に備蓄されているので、景気良く売却可能です。 50万丁と大見得切っていますが、実際にはせいぜい数年間での分割購入で数万~10万丁くらいが限度でしょうが(主に値段の問題で)。 最新型の百式小銃の性能が良好で量産体制に入っているので、三八式は今後前線から姿を消しつつ自国民に猟銃として払い下げたり、同盟国、友好国に売却の方向です。 村田銃とか、それよりさらに古い幕末洋式銃などは数がそもそも少なかったり、規格が雑多だったりで、輸出しても不具合の方が多いのではないかと思いまして。 黒色火薬+ペーパーカートリッジの古式銃であれば、F世界側もすんなり導入可能でしょうが、もはや皇国でそんな銃は現役として使われていませんし。 コピーに関しては、分解して仕組みを理解したとしてもそれを製造可能な工場がF世界にはありませんから、すぐにどうこうという事も無いので。 将来的には、「イルフェス国産の連発式ライフル」も出てくるかもしれませんが、その頃には皇国はアサルトライフルを開発している事でしょう。 「整備、指導料込み」ではどうでしょうか。 良いですね。 『訓練や整備、指導料込みで50リルスなら~』で違和感ありませんね。 784 こちらの帝國は売れるものは何でも売るという正しい貿易国家になっておりますなw 手っ取り早く外貨を稼ぐ手段の一つとして、武器輸出は有効ですから。 缶詰製品とかマッチや鉛筆などの各種日用品だとかは有用な輸出品目ですが、やはり単価が低いので数を売ってもそれ程のお金(正貨=金貨、銀貨)にならないんですよね。 くろべえさんの作品にあった、上流階級向けの服飾や化粧品なども行われているのでしょうけれど、二番煎じを書くのも気が引けるので……。 戦艦などの大型艦を見たら 小さな島くらいの「浮かぶ要塞」ですから、「こんなモノ人間が造れるハズが無い! もしや皇国は魔法国家か!?」って事になったりして……。 さすがに、国防上もユーザーサポート的にも戦艦は(前ド級艦であっても)売却不可ですが(笑) 785 その主砲が火を噴かないことには「張子の虎」と認識される可能性があります。 F世界の常識的には「大きすぎる大砲は実用性に欠ける」というものがありますので、金剛級の14インチ砲でも想像を絶するデカさで「張子の虎」認定されるかもしれません。 ただ、皇国軍の浮世離れした火力を見聞きした人にとっては、「あの大砲が火を吹いたら大変な事になる」という考えに到るかもしれません。 どちらにしろ、超弩級艦は燃料事情的に出せないので本国で安置、切り札の秘密兵器的な扱いですから、F世界の人の目に触れる事は近い将来無いでしょう。 786 そんな、あんな美しい船に大砲乗っけるだなんてもったいない! 史実では戦争で本来の仕事とは違った任務に就いたりしていましたが、F世界では願わくば、練習船として生涯を全うしてほしいものです。 787 基本、「大きければ大きいほど強い」のが戦列艦ですからね。 788 旧式軽巡であれば、派遣軍に含まれているのでイルフェス人も見聞きしています。 789 仮に永久機関を積んでいても、水や食糧や乗員の精神が保たなければ意味がありませんし、どのみち船には補給が必要って事には変わりないですよね。 790 「凄い大きな軍艦」という事は理解できても、その具体的な威力は実感湧かないと思います。 F世界最強の戦列艦の大砲と比べても、あらゆる面で桁が違いますから。
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第268話 燃ゆる大洋(前編) 1485年(1945年)12月7日 午前8時 レビリンイクル沖北北東250マイル地点 第5艦隊旗艦ミズーリの作戦室では、前日に引き続き、第5艦隊司令長官フランク・フレッチャー大将を始めとする司令部幕僚達が集まり、 机に広げられた地図を見ながら協議を行っていた。 「索敵線ですが、敵機動部隊の大元の位置が判明しておりますので、幾分範囲を狭めております。」 航空参謀のエルンスト・ヴォーリス中佐は、海図上のある範囲を指示棒の先で撫で回しながら、フレッチャーに説明する。 「索敵機は何機出している?」 「18機であります。」 「……艦隊の前方160度方向を索敵するから、18機でも大丈夫という訳か……」 「念のため、第2段索敵隊の16機も発艦させ、敵艦隊の位置情報の裏付けに当たらせています。」 「第1段索敵隊は、20分後に索敵線の先端に到達します。」 参謀長のアーチスト・デイビス少将が口を開く。 「今日の最大進出距離は400マイルに定めております。敵機動部隊も前進を継続している事を考えますと、彼我の距離は長くても 400マイル……短ければ360マイル程度にまで縮まっている事でしょう。」 「距離が短ければ、その分、パイロットの負担も減るからな。昨日の攻撃がいい例だった。」 「昨日の夜間攻撃は確かに成功しましたが……未帰還機が思いの外出ましたからな。」 TF58は、昨日の深夜に敵機動部隊へ向けて72機の夜間攻撃隊を発艦させた。 敵機動部隊への攻撃を成功させた攻撃隊は、午前4時30分にはTF58に帰還して来たが、帰還機はF8F12機、TBF20機、SB2C10機の計42機であった。 実際に撃墜された機は16機で、全てアベンジャーとヘルダイバーであるが、帰路、損傷の酷かったベアキャット2機、ヘルダイバー6機、アベンジャー6機が脱落し、 海面に不時着した。 脱落機はいずれも、機動部隊から100マイル前後の距離で力尽きていた。 TF58司令部は、この損耗率の高さは、無理な長距離夜間攻撃を敢行した事にあると結論付けている。 現在、脱落機のパイロットは、レビリンイクル沖北北東付近の散開線に布陣した、潜水艦アイレックスを始めとする10隻の潜水艦が救助活動を実施中である。 10隻中5隻はアイレックス級潜水艦であり、状況によっては、水上機を発艦させて捜索を行う事も考えられていた。 とはいえ、敵機動部隊との距離があと100マイルほど近ければ、脱落機の大半は無事、母艦に戻る事が出来たであろう。 「長官。本日発艦予定の第1次攻撃隊は、TG58.1、TG58.2、第2次攻撃隊はTG58.1、TG58.3の艦載機を主力にしております。 数は第1次攻撃隊が204機、第2次攻撃隊が340機となっております。」 「第2次攻撃隊の発艦は1次攻撃隊の何分後を予定している?」 「30分後を予定しております。」 フレッチャーの質問に答えつつ、ヴォーリス中佐は海図上の敵の駒に指示棒の先を当てた。 「第1次攻撃隊は、敵機動部隊上空に張り付く敵迎撃機の減殺と対空火力の排除を中心に行わせます。竜母や戦艦といった主力艦は狙いません。」 「レーミア沖海戦時の戦法をここでも使う訳だな。」 「その通りであります。第2次攻撃隊は、対空火力が減殺された敵竜母群に全力で突っ込ませます。第2次攻撃隊の編成は攻撃機が主力となっており、この内、 新鋭機のA-1Dスカイレイダーを172機投入します。爆装機は1000ポンド爆弾3発、雷装機にはMk13魚雷2本ずつを搭載しますから、第2次攻撃隊だけで 敵1個竜母群を確実に壊滅状態に陥れる事が出来ます。」 「凄まじい打撃力だ。」 フレッチャーは、スカイレイダーの非常識な搭載量に半ば感嘆する。 「本来であれば、この破壊力は昨日の内に発揮されている筈だったが……索敵失敗で振り上げていた拳を振り下ろす事が出来なくなってしまった。辛うじて、 夜間攻撃隊が敵竜母3隻を撃破してくれたが、こっちも正規空母2隻を敵の攻撃で損傷させられ、後退せざるを得なくなっている。今日こそは、昨日と同様の 失態を犯さぬようにしたい物だ。」 「ハッ。心得ております。」 フレッチャーの戒めるような言葉に対して、ヴォーリスは短いながらも、芯の通った口調で返答する。 「現在、索敵機は往路の3分の2を過ぎた辺りを飛行していますな。距離は320マイル程になります。攻撃隊を発艦させるには、長い距離でも360マイル程の 位置にが最適でしょう。その辺りに、敵機動部隊がおればいいのですが……」 作戦参謀のジュレク・ブランチャード中佐も口を開いた。 「攻撃隊の各機は、敵艦隊攻撃の際に必ずと言って良いほど、敵の対空砲火で損傷します。これまでの戦闘で明らかになった事ですが、損失数の30%以上は被弾によって 生じた燃料流出による燃料切れ。そして、そこから起こる洋上への不時着が原因です。また、厳冬期の航空作戦は、被弾機から脱出したパイロットの体力を短時間で奪って しまいます。損傷機並びに、パイロットの生存率を上げる為には、出来る限り距離を詰めたい所です。」 「私も作戦参謀の言う通りだと思う。レーミア沖海戦でも、被弾機のパイロットが極低温の海水に長時間浸かった為に、救助が駆け付ける前に息絶えた者が少なく無かった とも聞いている。だが……敵さんがどの辺りにいるかまでは我々が決める事は出来ん。状況次第では、最大進出距離ギリギリの所に敵機動部隊が居たとしても、攻撃を強行 しなければならん。母艦航空隊のパイロット達には酷な話だが……」 「昨日の夜間攻撃がそうでしたな。とは言え、やらねばならないでしょう。」 「そうだな。」 ブランチャード中佐に対し、フレッチャーは頷きながら返す。 「長官。少しばかり提案があるのですが、宜しいでしょうか?」 「参謀長、どうしたね?」 「はっ。今回の作戦では、攻撃の主目標はシェルフィクルにありますが、同時に、シホールアンル海軍の主力部隊に会敵した時はこれも撃滅する。という方針でしたな?」 「その通りだ。」 「……差し出がましいかもしれませんが……ここは、後顧の憂いを断つ為に、レビリンイクル列島の敵ワイバーン基地を爆撃しては如何でしょうか?」 「参謀長。私としてはその案に賛同しかねます。」 デイビス少将の提案に対して、ヴォーリス航空参謀が即座に異を唱える。 「今回の作戦では、敵の大工業地帯だけではなく、敵主力艦隊の撃滅という2つの任務を課せられています。TF58の戦力は確かに強大ですが、昨日の空襲では正規空母2隻を 戦列から失い、余裕がややなくなっております。今後は敵機動部隊との決戦に集中しなければならない所に、後方の敵飛行場を攻撃するという策は、戦力分散の愚を犯す事に なりかねませんか?」 「私も航空参謀の意見に同意します。」 ブランチャード中佐もデイビス少将に噛み付く。 「敵機動部隊との航空戦が始まれば、我が方も確実に母艦戦力をすり減らされます。TF58の対空火力は強大ですが、これまでの戦訓から見て、少なくとも空母4、5隻程度は 脱落する可能性があります。航空機の損耗も少なくないでしょう。そこに、レビリンイクル列島の敵飛行場攻撃を行うのは賛成しかねます。」 「……しかし、レビリンイクル列島の敵飛行隊は、昨日来襲して来た飛行隊だけではないかもしれない。敵信班は魔法通信傍受器を使って敵情の分析に当たっているようだが、 シホールアンル側は以前と違って、重要な情報には暗号らしき物を使って交信しているため、以前のように敵から情報を得る事は出来なくなったと聞いている。昨年の 第一次レビリンイクル沖海戦でも、敵航空戦力の数を見誤った事でTF37が壊滅的打撃を受けているではないか。長官……」 デイビス少将はフレッチャーに顔を向ける。 「航空参謀と作戦参謀は反対しておりますが、私としてはやはり、レビリンイクルの敵飛行場は叩くべきかと。もし、艦載機発艦準備中にレビリンイクル方面から来襲されれば、 目も当てられません。確かに、我が艦隊には早期警戒機も配備され、絶えず警戒しておりますが、これも完全とは言えません。いつ、どこかで隙は生じます。そこを、敵に上手く 衝かれたら、機動部隊に被害が及ぶことも考えられます。」 「……ふむ。」 「一部の空母群をレビリンイクル攻撃に差し向け、あとは敵機動部隊への攻撃に集中する事で対応は可能です。私としては、TG58.5にレビリンイクル攻撃を行わせ、 TG58.4も含めた4個任務群で敵機動部隊を攻撃すれば対応できると考えますが……長官。」 「参謀長。レビリンイクルの敵は、本当に打って出て来るのかね?」 フレッチャーは、レビリンイクル列島を見つめながらデイビスに問うた。 「は……その辺りは、確証は持てません。ですが、残存兵力が残っている限りは、確実に攻撃隊を飛ばして来るかと思われます。」 「すぐに……かね?」 「すぐにとまではいかないでしょう。ですが、敵機動部隊から発艦した攻撃隊と、シェルフィクル付近の飛行場から発進した飛行隊と共同で我が艦隊を攻撃する可能性は 非常に高いかと思われます。それを防ぐために、せめてレビリンイクル列島の敵航空基地はこちらが先制攻撃を行い、同地の敵拠点を覆滅し、敵の手数を減らした方が よろしいかと。」 「ふむ。君の言う通りだな。」 フレッチャーは大きく頷いた。 「参謀長の言う案の通り、後顧の憂いは断った方がいいかもしれんな。」 「長官、では……一部の空母群はレビリンイクルへ?」 ヴォーリスがどこか抑えるような口調でフレッチャーに聞いて来る。 それに対して、フレッチャーは首を横に振った。 「いや、空母群は差し向けない。レビリンイクル?そんな物は知らんさ。」 フレッチャーは、置いてあった指示棒を掴み、先を敵機動部隊の方向へ向けた。 「TF58は、戦闘可能な空母群を全て、敵機動部隊攻撃に投入する。昨日の攻撃で削ったとはいえ、第1時、第2次攻撃を終えても、敵には多数の竜母と 航空戦力が残るだろう。そうなれば、必然と追い討ちをかける必要がある。私としては、本日の夕方までに敵の竜母を10隻ほど撃沈破させたい。特に、 敵機動部隊の主力である正規竜母は全て撃沈するか、戦闘不能にして後退させる必要がある。そのためには、1機でも多くの攻撃機が必要になるだろう。」 「ですが司令官。レビリンイクル列島の航空基地には、昨日来襲して来た部隊とは別の部隊が配置されている可能性もあります。昨日の生き残りと共に TF58へ攻撃隊を差し向ける可能性も考えなければ。」 「確かにそうかもしれん。だがな、参謀長……レビリンイクルの敵飛行隊がこちらが襲ってくることを見越して、迎撃機だらけの編成で待ち構えている事も 考えられんか?」 フレッチャーの言葉を受けたデイビス少将は、うっと呻いてから口を閉ざす。 「仮にTG58.5の攻撃隊を繰り出すとしても、1度に飛ばせる数は440機中半数の200前後だ。これでも侮れん航空戦力だが、攻撃隊を出す以上、 こちらも反撃を受けて消耗する。そして、その間は敵機動部隊へ向けられる戦力が少なくなってしまう。正直言って、レビリンイクル列島の敵航空隊は 脅威と言えば脅威であろうが、艦体防空用の戦闘機を100機前後置けば何とか対応は可能だ。例え空襲を受けたとしても、こちらの迎撃で削りに削って やればいいだろう。TG58.5に敵が来れば、それこそ、レビリンイクルの航空隊を壊滅させるチャンスだ。また、TG58.5にはウースター級もいる。」 「……ウースター級は確かに強大な防空火力を有していますな。かの艦の威力は折り紙付きですから、防御には最適でしょうな。」 「そうだ、参謀長。TF58は、レビリンイクルの敵に対しては防御に徹し、敵機動部隊に対しては積極的に当たっていく。敵艦隊さえ退ければ、 シェルフィクル攻撃の道は切り開かれる。レビリンイクル攻撃に関しては、作戦終了後、燃料、弾薬に余裕がある場合に攻撃を行うか否かを再検討しよう。 今は、敵機動部隊を叩く事に専念しよう。」 フレッチャーの意志は固く、参謀長は自らの示した案を引き下げざるを得なかった。 「そうなりますと、第2次攻撃終了後に新たな攻撃隊を編成する事になりますが、こちらの方はやはり、TG58.4とTG58.5が主軸になりますな。」 「攻撃機の編成はTG58.5を主力にしたほうが良いだろうな。TG58.4で攻撃隊の編成に加われそうな空母は、ゲティスバーグしかおらんからな。」 フレッチャーは眉間に皺を寄せながら、ヴォーリス中佐に言った。 「となりますと、第3次攻撃隊は250~300機前後の数で構成される事になりますな。」 ヴォーリスが頭の中で2個空母群の残存空母と搭載航空団の構成を思い出しながら、フレッチャーに言う。 「第2次攻撃隊がどれだけ敵の竜母を削れるか……上手く行けばよいが。」 フレッチャーは、心中で不安を感じながらそう呟いた。 そこに、通信士官が作戦室に入室して来た。 通信士官は、通信参謀のエイル・フリッカート中佐に一声かけてから、携えていた紙を手渡した。 「長官。TF58司令部より緊急信です。」 「読め。」 「ハッ!緊急、TG58.2所属のピケット艦が敵偵察騎をレーダーで探知せり。位置は艦隊の北北東130マイル、方位12度。飛行高度は約4000。 現在、哨戒中のCAPが敵騎と交戦を行っているようです。」 その瞬間、室内の空気が一気に引き締まったように感じられた。 「……距離からして、艦隊は発見されていないでしょう。ですが、敵の偵察騎は我が方の戦闘機に襲われた事を必ず、母艦に報告している筈です。」 「報告が届いていれば、偵察騎の途絶えた位置からTF58までの位置を大まかにながら掴む事が出来る。恐らく、敵機動部隊の指揮官はこれまで、 合衆国海軍を相手にして来た歴戦の強者だろう。これは、先手を取られたかもしれんぞ。」 「それに対して、こちらは敵艦隊の発見はおろか、偵察機が敵ワイバーンと接触すらしていません。急いで敵を見つけなければ……。」 「……航空参謀。偵察隊が最大進出距離に達するまで、あと何分だね?」 「現在位置は、330マイル地点を飛行中ですから、現在の推定飛行速度と到達予想時刻を推測した場合……あと40分で引き返し地点に到達します。」 「敵機動部隊から攻撃隊が発艦し、こちらに向かうまでは……敵機動部隊との距離が最悪、400マイル前後と仮定して2時間弱。万が一、索敵隊が 敵を見落とし、敵機動部隊が340、または350マイル程の距離に居た場合は1時間30分足らずか………」 フレッチャーはしばし黙考したあと、航空参謀に視線を向けた。 「航空参謀。」 「ハッ!」 「偵察機が何も見つけられずに折り返し地点に到達し場合。TF58は全力で防衛に当たってもらう。その際、攻撃隊の艦爆、艦攻からは爆弾、魚雷を 速やかに取り外すと同時に、動員可能な戦闘機全てを上げ、敵編隊来襲に備えさせよう。」 午前8時20分 レビリンイクル沖北北東610マイル地点 第4機動艦隊司令官ワルジ・ムク大将は、旗艦であるホロウレイグの艦橋内で、険しい表情を浮かべながら幕僚達と協議を重ねていた。 「偵察機の情報から推測するとなると、敵機動部隊は撃墜されたと思しき位置から30~40ゼルドに居るのは確かだろう。だが、その位置が南方よりなのか、 それとも東よりなのか……果ては西よりなのかはまだはっきりしていない。位置が正確にわからない以上は、無理に攻撃隊を発艦させるべきではない。急行している 偵察騎からの情報を待ってからでも遅くは無いだろう。」 ムク大将は、攻撃隊発進を促す幕僚達に対して慎重論を唱えた。 「しかし、シェルフィクル基地所属の飛行隊は1時間前に発進を終え、推定位置に向けて進撃中であります。現在の位置は敵機動部隊の予想位置より130ゼルド手前です。 このままいけば、1時間30分以内には敵に接触できるでしょう。今の内に我が艦隊も艦載騎を発艦させれば、陸軍飛行隊と合同で敵を攻撃できます。」 「だがな航空参謀。推定位置は推定位置にしかすぎんぞ。もしここで、攻撃が空振りに終わったらどうなるのだ?陸軍飛行集団と我が艦隊の攻撃隊、総計600以上の攻撃が 空振りに終わりかねんのだぞ?先走った陸軍飛行隊はともかく、我が艦隊だけでも、正確に位置を突き止め、確実に敵を叩くべきだ。」 「しかし、敵機動部隊の戦力は強大です。昨日は敵空母2隻を撃沈破させましたが、こちらも敵機動部隊の夜間空襲で正規竜母ランフックと小型竜母2隻が脱落しています。 これによって、艦隊の保有航空戦力は960騎から800騎に減少しています。」 昨日の戦闘では、レビリンイクル列島駐留の第402、409空中騎士隊が敵空母1隻を撃沈、1隻を大破させたが、その直後、第4機動艦隊も敵機動部隊から発艦した夜間攻撃隊の 襲撃を受け、正規竜母ランフックと小型竜母マルクバ、エランク・ジェイキが大破した。 特にランフックは、一時期は沈没確実と思われるほどの大損害を被ったが、奇跡的に浸水が収まった。 その後、懸命の復旧作業のおかげで、後進状態であるならば4リンル(8ノット)の速力で航行が可能にまで回復した。 現在はマルクバとエランク・ジェイキと共に駆逐艦4隻の護衛を受けながら後退している。 戦闘開始早々、正規竜母の喪失という大失態を免れたのは不幸中の幸いと言えた。 だが、第4機動艦隊は竜母3隻が脱落した影響で航空戦力が著しく低下しており、特にワイバーン90騎を搭載していたランフックが、この夜間攻撃で脱落した事は大きな痛手であった。 「ランフックが抜けた分、艦隊の攻撃力、防御力はかなり削がれている。だが、それでも第1次、第2次合わせて500騎は敵に向けて飛ばす事が出来る。その500騎の攻撃力だけでも、 敵に正確にぶつけたいものだが……」 「司令官!第3群司令部より意見具申!直ちに攻撃隊発艦の要ありと認む。以上です。」 「……まさか、エルファルフが急かして来るとはな。」 ムク大将は、意外そうな口調でそう呟いた。 第4機動艦隊第3群は、竜母クリヴェライカに司令部を置いており、指揮官であるクリンレ・エルファルフ少将は物静かな青年提督として知られている。 だが、そのエルファルフ少将が攻撃隊の発艦を促すとは全く予想しておらず、誰もが意外に思っていた。 「ですが、エルファルフ提督の気持ちも理解できます。大まかとは言え、位置はほぼ特定しておるのです。あとは、周辺海域に急行中の索敵騎の情報を待ちながら攻撃隊を 発艦させても良いでしょう。」 「ううむ………」 ウークレシュ少将の言葉がムク大将の耳に入るが、ムクは尚も悩んでいた。 「司令官。決断して頂きます。」 ウークレシュ少将は、悩むムク大将の心境なぞ知らぬとばかりに決断を迫って来た。 「………参謀長。私の性には合わんが……ここは運が良い事を賭けてみるしかないか。」 「司令官。運も何も……我々がやる事は2つに1つ。勝負に勝つか負けるか、であります。」 「……そうだったな。」 ムクはそう言うと、微かに頷いてから伏せていた顔を上げる。 「各群に通信!攻撃隊、発進せよ!」 午前8時45分 レビリンイクル沖北北東270マイル地点 第5艦隊旗艦ミズーリの作戦室に、待ちに待った情報が飛び込んで来た。 「長官!リプライザルの索敵機より敵発見の報告が入りました!」 「遂にか。」 やや興奮気味なフリッカート中佐とは対照的に、フレッチャーは平静な表情のまま報告を受ける。 「敵は我が艦隊より北北西約370マイル付近を時速28ノットの速度で南下しているとの事です。それから、敵機動部隊からは、ワイバーンが 大挙発艦中との事です。」 「先ほどの偵察騎撃墜の報告に反応したようですな。」 デイビス少将がポツリと言う。 「となると、こちらの正確な位置は掴んでいない可能性があるな。とは言え、我が艦隊には別の敵偵察騎が接近しつつあるだろう。こちらの位置が 敵に掴まれるのも時間の問題だな。航空参謀!」 「ハッ!」 呼ばれたヴォーリス中佐がフレッチャーの顔を見つめる。 「各任務群に通達。攻撃隊、順次発艦開始。TG58.4は稼働戦闘機全機をもって迎撃戦闘に参加せよ。」 「アイアイサー!」 フレッチャーの命令は、直ちに各任務群へと伝わった。 既に、TG58.1,TG58.2の2個空母群の飛行甲板上で待機していた第1次攻撃隊204機はいつでも発艦できる状態にあり、命令が伝わるや、 待機室に居たパイロット達が我先にと飛行甲板に躍り出し、愛機に飛び乗っていく。 暖機運転を終えていたエンジンが再び唸り上げながらプロペラを回していく。 回転速度は一瞬にして跳ね上がり、各母艦の甲板上で大馬力エンジンの放つ轟音が猛々しく鳴り響く。 任務群旗艦から指揮下の艦へ風上に向けて航行するように命令が下ると、やや間を置いて、全艦が西の方角に舵を切り始める。 TG58.1やTG58.2だけではなく、TF58指揮下の任務群全てが西に向けて順次転舵していく様は、巨大な海獣が獲物を見つけ、その大きな体を くるりと回すような感があった。 艦首より吹き込まれる風が合成速力を生んでいく。 真冬の北の海は波がやや高いものの、晴天という事もあってか、航行には何ら不自由は無かった。 艦長の号令が下るや、艦橋上の赤いランプが青に切り替わった。 甲板要員が顔の前に掲げていたフラッグを大きく振りかぶった後、各母艦の1番機が轟音を発しながら滑走していった。 第1次攻撃隊204機の発艦作業は、午前9時に終了した。 その後、大急ぎで第2次攻撃隊340機の発艦準備が始まり、各母艦の兵器員や整備員、甲板要員達は、体の疲労感を感じさせぬ動きで作業を進めていった。 午前10時15分 レビリンイクル沖北北東300マイル地点 アメリカ、シホールアンル軍双方が攻撃隊を飛ばしてからほぼ2時間後。 最初に攻撃位置に付いたのは、シホールアンル側であった。 シホールアンル陸軍第45戦闘飛行団の指揮官を務めるフェンクル・クレゴート少佐は、眼前に広がる多数の機影を前にして身震いした。 「なんて数だ……あんな大群に襲われて、果たして無事に敵艦隊へ辿り着けるのか……」 クレゴート少佐は、不安を滲ませた口調で言う。 現在、第45戦闘飛行団は、所属基地であるシェルフィクル基地から飛び立った第58攻撃飛行団と第411空中騎士隊と共に敵機動部隊へと向かいつつある。 シェルフィクル基地には、この2個ケルフェラク隊、並びに1個空中騎士隊の他に、第402空中騎士隊と第409空中騎士隊も在籍していたが、この2個空中騎士隊は 3週間前にレビリンイクル列島のホースコ島の基地に移動していたため、攻撃はシェルフィクル基地に残っている3個飛行隊で行う事となった。 シェルフィクル基地に司令部を置く第54混成飛行集団は、この5個飛行隊で構成されている。 昨日の夜間戦闘では、既に第402、409空中騎士隊が空母1隻撃沈、1隻大破、護衛艦8隻撃沈破という大戦果を挙げているため、クレゴート少佐を含む将兵達は、 次こそは我らがとばかりに、大いに士気を上げた。 だが、眼前の敵迎撃機はなかなかに数が多く、この迎撃網を突破するには相当の損害が出るかと思われた。 「海軍の竜母部隊から発艦したワイバーン隊も後ろから近付いている。連中はそこにも戦闘機を差し向けて居る筈だが……」 クレゴート少佐は眉間に皺を寄せながら独語していく。 シェルフィクル基地所属の攻撃隊の背後には、第4機動艦隊から発艦した攻撃隊も続いている。 元々は第54混成飛行集団の所属隊のみで進撃していたが、第4機動艦隊の付近を通りかかる際、偶然にも発艦を終えた艦載ワイバーン群と合流を果たしていた。 その第4機動艦隊側の指揮官騎から、先ほど、敵戦闘機の触接を受けるという報告が入っていた。 今頃は、ワイバーン隊の眼前にも多数の米戦闘機が迫りつつあるのであろう。 とはいえ、眼前の敵機の数は、少なめに見積もっても150機以上は居る。 対して、第45戦闘飛行団はケルフェラク56機。ワイバーン隊は出撃騎102騎のうち、戦闘ワイバーンは64騎のみ。 計108機で、第54攻撃飛行団のケルフェラク54機、第411空中騎士隊の攻撃ワイバーン48騎を守り抜かればならなかった。 「指揮官騎より各騎へ。敵迎撃機が接近!ケルフェラク隊、戦闘ワイバーン隊は一部の護衛を残し、敵の迎撃部隊を殲滅せよ!」 攻撃隊指揮官を務める第411空中騎士隊の指揮官が命令を伝えて来た。 クレゴート少佐は、コクピットの右側にある四角の箱に向けて了解と返しながら、頭の中でどの隊を敵編隊にあてるか、瞬時に考えていく。 「……こちら指揮官機。各機に告ぐ。聞いての通りだ。これより、敵さんを迎え撃つ。第1、第2中隊は編隊より離れ、敵に向かう。第3中隊は攻撃隊の護衛に当たれ。 本部小隊は俺と共に敵機狩りだ!」 「「了解!」」 部下達からの応答を聞いたクレゴート少佐は、ぶら下げていた空気マスクを口元に取り付け、愛機の速度を速めていく。程無くして、直率の小隊と共に編隊から突出し始めた。 彼の直率小隊に習うかのように、第1中隊、第2中隊の36機が編隊から離れていく。 視線を右前方のワイバーン隊に移すと、そこでも敵機に向かうワイバーンの姿があった。 数は50以上はいるであろう。 「数的にはなかなかの勢力だが……やはり、敵の方が多すぎるな。」 クレゴート少佐は舌打ちしながら呟くが、戦闘開始までは時間が無かった。 この時、第54飛行集団は高度2000グレル(4000メートル)を維持しながら飛行していたが、米側は3000グレル程(6000メートル)の高度で 彼らを待ち構えていた。 位置的には、アメリカ側が有利であった。 増速したワイバーン隊がケルフェラク隊よりも先に接近していく。 目視から10分足らずの内に、制空戦闘が始まった。 ワイバーン隊に遅れる事1分半……ケルフェラク隊も米戦闘機隊との戦闘に突入した。 ケルフェラク隊は、上方から突っ込んで来る米戦闘機隊を下方から迎え撃つ。 クレゴート少佐は、ある敵戦闘機に狙いを付ける。 (あの小柄な形……あれが、噂のベアキャットと言う奴か。) 彼は、眼前の敵戦闘機の形を見るなり、心中でそう思った。 クレゴート少佐は、今では貴重種と揶揄されているケルフェラク隊初陣時から前線に居る古強者であり、過去に幾度か、アメリカ海軍の戦闘機ともやりあっている。 これまでの経験上、ヘルキャットやコルセアは無骨さを感じさせる姿をしていた。 だが、目の前の敵戦闘機は、ヘルキャットやコルセアと違って、機体が小さく、動きが良さそうな感じがした。 (今日初めて戦う事になるが……貴様の力、見せて貰うぞ!) クレゴート少佐は敵戦闘機に心中で語り掛けながら、距離200グレルに迫った所で魔道銃の発射ボタンを押した。 ケルフェラクの主翼に搭載された4丁の魔道銃が光弾を吐き出す。 敵機を包み込むようにして吐き出された光弾の一部は、過たず敵新型戦闘機に突き刺さった。 光弾が突き刺さると同時に、敵戦闘機も両翼から機銃を発射したが、これはクレゴート機を捉えることが出来ず、両者はそのまま高速ですれ違って行った。 彼は次に、別の敵戦闘機に狙いを付け、短い連射を叩きこむが、これは惜しくも外れてしまった。 敵戦闘機との正面戦闘は短時間の内に終結し、クレゴート少佐は5機に魔道銃を放ち、2機に命中弾を与えていたが、撃墜には至らなかった。 最初の儀式とも言える正面戦闘が終わった後、ケルフェラク隊は反転して敵戦闘機に向かう。 この時、40機いたケルフェラクは36機に撃ち減らされていた。 敵戦闘機もまた、反転してケルフェラクに向けて突進して来る。 米戦闘機隊もまた、正面戦闘で2機が撃墜され、4機が被弾して戦線離脱を図っていたが、数は50機以上と多いため、躊躇う事無く再戦を挑んで来た。 「ここからは2機ずつに散開しながら敵機と当る。クスブナとヴェニはペアを組んで敵と当れ!ポリトヴ、行くぞ!」 「了解です!任せて下さい!!」 クレゴート少佐の2番機を務めるポリトヴが威勢の良い返事を響かせる。 クレゴート少佐は28機撃墜の古強者だが、ポリトヴ中尉もまた、44年春から今年の8月までの間に、17機の敵を撃墜したベテランである。 新型機との空戦を戦う準備は整ったと、クレゴート少佐は確信した。 反転した敵戦闘機隊との空戦が始まった。 ベアキャットとケルフェラクの戦闘は、当初、ほぼ互角に推移していた。 クレゴート少佐とポリトヴ中尉のペアに関しては好調とも言える程で、最初の攻撃でワイバーン編隊に向かおうとしていたベアキャットの2機編隊の背後を 取る事に成功した。 ベアキャットは、背後に迫った2機のケルフェラクに気付くと、すぐに右旋回を行い、ケルフェラクの背後を取りにかかった。 だが、この2機のパイロットはまだ実戦経験が浅かった為か、ケルフェラクに後方200メートル以内に接近されるまで気付かなかったことが命取りとなった。 「遅い!!」 クレゴートは、愛機の姿勢を傾け、反応の鈍い敵戦闘機の未来位置に光弾を弾き出した。 ポリトヴ中尉もまた、クレゴートが狙った敵機目がけて魔道銃を放つ。 1機4丁、計8丁の魔道銃から放たれた光弾がベアキャットの未来位置に注がれ、敵機のパイロットが自らの失敗に気付いた時には、機首からコクピット上面部、 後部と、ほぼ満遍なく光弾が命中していた。 敵戦闘機はコクピットを鮮血に染め、左右の主翼から真っ白な煙を吐きながら墜落して行った。 (主翼部分にも7、8発は当たったはずだが、それでも火を噴かんとは。ナリは小さいが、防御力はヘルキャット並みか……畜生!) クレゴートは心中で毒づきながらも、すぐに狙いを2番機に向ける。 2番機は僚機のあっけない最期に恐れを成したのか、急降下で戦域を離脱し始めた。 「腰抜けは放っておけ!!」 「了解です!お、隊長!6時方向から突っ込んできます!」 「左にかわすぞ!」 クレゴートは素早く指示を飛ばしながら、愛機を緩やかな右旋回から左旋回に移行させた。 ケルフェラクが旋回を始めた直後、背後から夥しい数の機銃弾が注がれて来た。 だが、敵機の放った銃弾はケルフェラクが旋回した事で全て外れ弾となった。 ケルフェラクの動きに合わせて、敵戦闘機も左旋回を行う。 「隊長!敵がくっ付いてきました!」 「やはり付いて来るか!」 クレゴートは舌打ちをしながらそのまま旋回を続ける。 機種は先ほどと同じく、ベアキャットである。 急旋回を行うクレゴートのペアに付かず離れずの位置を保っている。 クレゴートのペアは、ベアキャットのペアを相手に巴戦を演じていたが、それは3週ほど回った直後に終わりとなった。 「隊長!今行きます!」 唐突に、受信機から声が響くと同時に、後方に付き纏っていたベアキャットがいきなり旋回を止めた。 そのベアキャットの上方から光弾の嵐が打ち下ろされた。 不意打ちを食らったベアキャットだが、避けるタイミングが早かった為か、光弾は1発も命中しなかった。 新手が現れた事で不利と悟ったのか、2機のベアキャットは旋回降下しながら空戦域から離脱していった。 「隊長!ご無事ですか!?」 聞きなれた声が響くと同時に、クレゴート機の右斜めに2機のケルフェラクが並走して来た。 「その声はヴェニか。そっちは大丈夫か?」 「うちらはなんとか大丈夫ですが、他の連中がかなり苦戦しています。」 クレゴートはヴェニから聞いた後、周囲を眺め回した。 「……くそ、やはりベアキャット相手では、余程上手くやらん限り厳しいか……!」 彼は眼前に広がる光景を前に、歯噛みしながら言葉を吐き出した。 空戦開始から15分程経った頃には、シホールアンル軍航空部隊は優勢な米艦載機隊に対して非常に苦しい戦闘を強いられていた。 クレゴートのように上手く立ち回り、ベアキャットを叩き落すケルフェラクやワイバーンも居るには居るのだが、ベアキャットは持ち前の機動性と綿密な 連携力を活かして、シホールアンル軍を押しに押していた。 ある1機のケルフェラクは、不幸にもベアキャットに格闘戦を挑んだために、逆に後ろを取られて無慈悲な攻撃を受け、撃墜されていく。 また、とあるワイバーンはペアを崩さずにベアキャット渡り合っていたが、敵はベアキャットのみならず、コルセアやヘルキャットといった“顔馴染み”も 多数混じっているため、ベアキャットの攻撃を凌いでも、コルセア、ヘルキャットの連撃に耐え切れず、遂には2騎まとめて撃墜されてしまった。 攻撃隊のワイバーンは、最新式の85年型汎用ワイバーンが大半を占めていたが、一部のワイバーン隊は従来の83年型汎用ワイバーンを使用しており、 第411空中騎士隊がその一部の部隊であった。 第411空中騎士隊はベアキャットを始めとする米戦闘機群の前に悪戦苦闘を強いられた。 敵の迎撃隊と当る前には、411空中騎士隊の戦闘ワイバーンは48騎を数えていたが、今では29騎にまで撃ち減らされていた。 苦戦しているのは制空任務を帯びたケルフェラク、戦闘ワイバーン隊のみではなかった。 元々、迎撃隊の数が多かった米側は、40機ほどの戦闘機を敵攻撃隊の本隊に殴り込ませていた。 敵戦闘機の大半は俊足を誇るベアキャットであった。 攻撃隊についていた護衛のケルフェラクやワイバーンが挑みかかるが、拘束できたのはせいぜい14、5機ほどで、20機以上の戦闘機は迎撃を受ける事無く、 猛然と攻撃隊に殴り掛かった。 ベアキャットの両翼に付いている20ミリ機銃4丁が、重い魚雷や爆弾を抱いたケルフェラクの機体に突き刺さり、大穴を開けて飛行能力を削いでいく。 機首のエンジン部分に被弾したケルフェラクが、被弾箇所から煙を吐きながら急速に速度を落とし、編隊から落伍していく。 そのケルフェラクは、重傷を負った事も気にせぬまま味方に付いて行こうとするが、別のベアキャットがとどめの一撃を繰り出し、ケルフェラクの右主翼を 叩き折った。 攻撃用のケルフェラクは、ヘルダイバーやアベンジャーを見習って後部座席に旋回機銃が設けられており、後部座席の搭乗員はそれを必死に撃ちまくった。 ケルフェラクは、編隊ごとに弾幕をはって米戦闘機の攻撃を食い止めようとする。 運悪く、1機のベアキャットが集中射撃を食らってしまった。 ベアキャットは機首や主翼に多数の光弾を受けた後、エンジン部分と右主翼から真っ黒な黒煙を吐き出し、攻撃を行う間もなく離脱にかかっていく。 ケルフェラク隊に被撃墜機が次々と出る中、攻撃ワイバーン隊もまた、ベアキャットに暴れ込まれ、次々と犠牲になっていく。 機銃弾は、最初は魔法障壁が弾いてくれるのだが、12.7ミリ弾とは違い、威力のある20ミリ弾は83年型ワイバーンの魔法障壁を数連射で吹き飛ばし、 ワイバーンと竜騎士を次々と射殺していった。 「こちら攻撃隊!敵戦闘機の攻撃が激しすぎる、このままじゃ全滅だ!」 「第3中隊に損害が集中している……ああ、また1騎落ちて行った。第3中隊はもう半分も残っていないぞ!」 「こちら第2中隊!中隊長が落とされた!護衛機をもっと増やしてくれ!!」 ワイバーン隊の竜騎士達は、爆発的に上がる損害の前に必死に救援要請を送る。 だが、制空隊も敵戦闘機との交戦に手一杯であり、攻撃騎隊に応援を寄越す余裕は無かった。 「クソ……こんな調子じゃ、一体どれだけの攻撃機が敵に辿り着けるんだ……」 苦戦する味方を前に、部下の1人が弱気な言葉を漏らした。 「狼狽えるな!今からでも遅くは無い。出来るだけ、多くの敵機を引き付けて攻撃機隊の被害を抑えるんだ!右上方に別の敵機だ。 攻撃機隊を狙っているようだぞ。まずは、あの2機を始末する。着いて来い!」 「「了解です!」」 クレゴート少佐のケルフェラクが先に速度を上げ、次にポリトヴ中尉も後を追っていく。 彼の言葉に勇気付けられた2機のケルフェラクもそれに続き、尚も攻撃機隊を狙うベアキャットに挑んでいった。 午前10時45分 レビリンイクル沖北北東285マイル地点 「敵編隊、我が艦隊に尚も接近中!戦闘開始まであと5分!」 第58任務部隊第2任務群の司令官であるマイルズ・ブローニング少将は、群旗艦である空母レンジャーⅡのCICで管制員の 口から飛び出た言葉を聞くなり、思わず眉をひそめる。 「投入可能の戦闘機420機を投入したのにもかかわらず、なお250騎以上の敵がこっちに迫っているか。」 「敵攻撃隊の3分の2近くは我が任務群に向かっております。迎撃隊は奮闘してくれましたが、やはり、数が多いと撃ち漏らしも多くなりますな。」 TG58.2司令部の航空参謀を務めるケネシー・グリント中佐がCIC内にある態勢表示板を見ながらブローニングに答えた。 TF58は、午前10時10分頃にピケット艦がレーダーで200機前後の敵編隊を探知した。 その5分後には、新たに300機以上の敵大編隊が続行している事が分かり、そのまた10分後にやや数が少ないながらも、200機以上の 敵編隊がその後ろから続いていた。 TF58は、この敵大編隊の来襲に対して、使用可能な戦闘機420機を投入して迎撃を行った。 迎撃隊の一部はまず、先発隊と思しき敵編隊に対して交戦を開始し、その後、後続の迎撃隊が次々と交戦に入った。 TG58.2からは、戦闘機108機が発艦して戦闘に加わっている。 空戦開始から30分以上が経った現在、迎撃隊は敵機130機を撃墜、98機に損傷を与え、うち半数を脱落させたと推測されているが、 こちらの被害も少なく無い。 指揮下にある各母艦からの報告を合わせた所、TG58.2が送り出した戦闘機隊は、108機中13機が撃墜され、ほぼ同数が被弾して戦線を 離脱しつつあると言われている。 損耗率は実に2割だ。 TG58.2の被害状況でこれであるから、TF58全体の被害ではかなりの物になっているだろう。 だが、敵に与えた損害も少なくなく、特に新鋭機のF8Fはケルフェラクの戦闘では常に優勢を維持し、ワイバーンとの戦闘でもほぼ互角に立ち回るなど、 期待に違わぬ奮闘を見せていた。 しかし、大量の戦闘機をもってしても、敵攻撃隊の完全阻止が叶わなかった。 「ここからは、艦隊自身が頑張るしかないな……」 ブローニングはしわがれた声でそう呟きながら、過去に経験した幾つもの海空戦を思い出す。 「これまでにも、母艦の戦闘機隊は敵の完全阻止を狙ってきたが、その度に押し通されて来た。だが、今日こそはそれも果たせると思っていた物だが…… やはり、一度に出す数には限度がある上に、一時に700機以上の敵編隊に襲われては、航空管制も飽和状態になる。正攻法で行く以上、敵編隊の 完全阻止は無理な話かもしれんな。」 「護衛艦の奮闘に期待するしかありませんが……せめて、ウースター級があと4隻あれば……」 「無い物ねだりしても始まらんさ、航空参謀。」 暗い表情で呟くグリント中佐に、ブローニングは苦笑しながら言う。 「それ以前に、TF58の主力を構成する5個空母群のうち、TG58.3とTG58.5には戦艦がいない。戦艦がいないとなると、使える対空火力も ぐんと減る。この2個任務群は、戦艦がいない穴を埋めるために、4隻しかないウースター級を均等に配置して貰っている訳だ。戦艦が配属されている 我が任務群は、TG58.3とTG58.5に比べればまだましな方だよ。」 「なるほど……確かに。」 「とは言え……あの凄まじい対空射撃の恩恵を受けられないのは、確かに寂しい物だ。」 ブローニングはため息交じりにそう言い放った。 午前10時45分には、TG58.2所属の駆逐艦群が、左右に別れて迫りつつあるワイバーン群に対して対空射撃を始めた。 TG58.2は、計169騎のワイバーンに襲撃されていた。 このワイバーン隊は第4機動艦隊から発艦したワイバーンであり、元々は第1次攻撃隊と第2次攻撃隊に別れて飛行していたが、第1次攻撃隊が 米戦闘機隊の猛烈な迎撃の前に編隊を乱され、前進速度が落ちた所に、20分遅れで発艦した第2次攻撃隊のワイバーンが合流した。 シホールアンル軍攻撃隊は、米戦闘機群の迎撃がひと段落した際に素早く再編成を試み、大多数の母艦飛行隊がそれに成功していた。 第4機動艦隊の攻撃隊は、大半がTG58.2に向かい、残りの40騎前後は第54混成飛行集団の生き残りと共に、TG58.1に向けて 突進していった。 第58任務部隊第2任務群に属している空母アンティータムでは、既に舷側の各機銃座に機銃員と給弾手が配置に付いており、いつでも戦闘が開始 できる状態にあった。 空母アンティータム艦長、エモンド・グローヴス大佐は、艦橋で駆逐艦群の対空射撃を浴びながら前進しつつある敵ワイバーン群を双眼鏡で確認する。 「左舷方向に7、80騎。右舷方向にほぼ同数と言った所か。いつものサンドイッチ戦法でTG58.2を押し潰すようだな。」 彼がそう呟いた時、5インチ砲弾の弾幕に絡め取られた1騎のワイバーンが急速に高度を落としていく。 ついで、もう1騎が高角砲弾の黒煙を突っ切る直前に新たな砲弾の炸裂を受け、体を一瞬のけ反らせてから海面に墜落していく。 犠牲を出しながらも、敵編隊は前進を続けていく。 対空射撃は、高度4000付近を飛んでいる敵編隊に注がれているが、それとは別に低空侵入の敵ワイバーン群に対しても、駆逐艦群は砲撃を続けている。 射撃を行っているのは、輪形陣外輪部の駆逐艦群だけではなく、やや内側を航行する巡洋艦群や戦艦も射撃に加わっている。 重巡洋艦ノーザンプトンⅡは、陣形の左側に陣取る戦艦アラバマと軽巡洋艦フレモントと共に敵編隊と交戦していた。 「左舷上方の敵騎、さらに1騎撃墜!」 ノーザンプトンの艦橋前に配置された5インチ連装両用砲を指揮するヤン・ハートレット少尉は、両用砲の後部にある観測口から身を乗り出し、 口元のマイクに向かって逐一報告を送り続ける。 「こちら1番両用砲。敵先発隊、尚も接近中。一部は7、8騎ずつの小編隊に別れつつあり。」 「1番両用砲はそのまま高空の敵騎へ砲撃を続行せよ。異変が生じたら別の指示を送る。」 「了解!」 ハートレット少尉は、口元に伝う汗をぬぐいながらそう返答しつつ、戦場の様相を見据え続ける。 今の所、戦闘は一方的であった。 ボルチモア級重巡の3番艦として建造されたノーザンプトンには、6基の5インチ連装両用砲と多数の40ミリ機銃、20ミリ機銃が付いているが、 ノーザンプトンは6基中4基の連装砲を敵編隊に向けて撃ち放っていた。 ハートレット少尉の目の前でも、両用砲は盛んに砲撃を行っている。急角度に砲身をかかげ、5秒から6秒おきに射撃を続ける様はなかなかに凄まじい。 耳栓替わりのヘッドフォンをしていなければ、短時間で聴覚を麻痺されてしまう程だ。 「もし、連中が対空艦潰しを任されていたら、そろそろ駆逐艦か……俺達に突っかかって来る頃だな。」 ハートレット少尉がそう呟いた直後、高空の敵編隊は予想通りの動きを見せた。 総計で2、30騎ほどの敵編隊は幾つかの小編隊に別れると、すぐさま急降下に移った。 その中の一部は、ノーザンプトンに向けて突進しつつあった。 「敵の一部がこっちに向かっている!目標変更!左舷上方より接近しつつある敵5機!」 砲術長の指示が、耳元のヘッドホンから響く。 「目標変更!左舷20度!全力射撃!!」 ハートレット少尉の指示が発せられるや、砲塔が僅かに動き、砲身が急降下しつつある敵機に向けられる。 目標を捉えた5インチ砲がすぐさま発砲を開始した。 敵機の前面でVT信管付きの砲弾が炸裂するが、その瞬間、魔法障壁が発動した光が発せられる。 至近弾を受けたワイバーンは何事もなく爆煙を突っ切って来たが、矢継ぎ早に放たれた別の砲弾が、またもや至近で爆発する。 先ほどの被弾で魔法障壁も限界だったのか、今度は砲弾の破片をまともに食らい、一瞬にして撃墜された。 細切れになった味方ワイバーンを気にする事なく、後続の敵騎は猛速でノーザンプトン目掛けて突っ込んで来る。 敵騎が高度2000メートルに降下したのを見計らって、待機していた40ミリ機銃、20ミリ機銃が一斉に火を噴く。 高角砲弾の猛射に加えて多数の機銃が放たれ、ノーザンプトンの上空には無数の曳光弾が吹き荒んだ。 これにはさしもの敵もたまらず、2番騎と3番騎が相次いで叩き落された。 残った2騎はなおも急降下を続けるが、高度1000メートル付近で更に1騎が撃墜された。 残った1騎は高度800付近まで降下してから爆弾を投下した。 通常は500~400メートル前後の低空まで突っ込んで来る敵にしては珍しく、及び腰の投弾となったが、不幸にも、この爆弾はノーザンプトン目掛けて 落下して来た。 「敵機爆弾投下!!」 ノーザンプトンの見張り員が絶叫めいた口調で艦橋に伝える。 艦長はすぐさま取舵一杯を命じたが、爆弾はノーザンプトンが舵を切る前に着弾した。 敵騎の投下した300リギル爆弾は、ノーザンプトンの右舷側艦首海面に至近弾として着弾した。 直撃弾では無かったものの、その衝撃は凄まじい。 ノーザンプトンⅡはボルチモア級重巡の一員として建造され、基準排水量14500トンを誇る大型艦であるが、先の至近弾は、その巨体を頼りなさげに 感じさせる程にまで揺さぶった。 ハートレット少尉は至近弾落下の際の衝撃で、観測口の縁に思い切り右肩をぶつけた後、足を踏み外して砲塔内部に落下してしまった。 衝撃が収まると、彼は慌てて歩み寄って来た給弾員達に引き起こされた。 「班長!大丈夫ですか?怪我はありませんか!?」 「肩とケツをぶつけてしまったが……何とか大丈夫だ。」 ハートレット少尉は右肩をさすりながら部下に答える。 「シホット共はうじゃうじゃと来ている。俺の体は心配せんでいいから、今は砲を撃ちまくる事を考えろ!」 「りょ、了解です!」 部下達は一様に頷くと、すぐさま持ち場に戻った。 「……まだ体は大丈夫だ。」 ハートレット少尉は、痛む右肩をあえて意識せぬまま、観測任務に戻る事にした。 ハシゴを上る際に、彼は外部から複数の爆発音を耳にしていた。 空母アンティータムの艦橋からは、輪形陣外輪部の駆逐艦部隊と、巡洋艦群が次々と爆撃を受ける様がはっきり見る事が出来た。 「ド・ヘイブン、ビートン・ローズ、フェン・エリクス被弾!ビートン・ローズが落伍していきます!!」 「ノーザンプトンに至近弾!フェアバンクス被弾!火災発生しました!!」 「……数は減っていようが、まずは対空艦潰しから行くという事か。」 グローブス艦長は眉間に皺を寄せながらそう独語する。 アンティータムが面している左舷側方向の対空網は、被弾、損傷した艦が相次いだことによって明らかに穴が開いていた。 この穴から後続のワイバーン群が続々と侵入しつつあるが、残った艦は全力射撃を続けて必死に敵騎の阻止に努める。 アンティータムも5インチ砲を用いて敵編隊に砲弾を浴びせ続ける。 防空網の穴は容易に埋められぬ物の、残存艦の投射弾量は侮れぬ物があり、今でも敵編隊の周囲には無数の高角砲弾が炸裂し続けている。 敵騎は高角砲弾の炸裂によって、なけなしの戦力をさらに減らされつつあったが…… それでも限界はあった。 「高空より敵ワイバーン12、本艦に接近しつつあり!」 アンティータムの操舵手を務めるケント・コートニー兵曹長は、対空機銃座の指揮官が付けている物と同じ、マイク・ヘッドフォン付きヘルメットから 流れて来る指示に聞き入っていた。 「敵爆撃隊接近中!針路このまま!!」 「針路このまま!アイ・サー!」 コートニー兵曹長は、口元にあるマイクにそう返しながら、舵輪に置いた両手に力を入れた。 彼は、この道10年のベテラン下士官であり、開戦前は空母ヨークタウンの操舵員を務めていた。 1944年9月にアンティータム乗り組みを命じられてからは、この新鋭艦の舵輪を操り続けている。 「艦長……どう判断しますかな?」 彼は、直上にいるグローブス艦長に向けて呟く。 航海艦橋の真上は、艦長が陣取る第1艦橋がある。そこで艦長が指揮を執っているのだが、今そこにある危機を切り抜けられるか否かは、天井の向こう側に いる艦長の判断次第だ。 外から響いて来る砲声は、ヘッドフォン越しからでもかなり喧しく聞こえて来る。 艦深部からの機関音はこれまた騒々しく、こちらもまたなかなか喧しい。 現在の速力は、艦隊随伴戦艦であるアラバマに合わせる形で27ノットしか出していないが、それでも通常の輸送船と比べれば格段に速いため、機関出力も高くなる。 外からの喧騒と内からの喧騒が合わさっている今では、ヘッドフォン越しに聞こえる声もやや聞き取り辛い。 だが、コートニーはそれでも、全神経を集中して次に来る指令を待つと同時に、外からの喧騒にも注意を向ける。 (砲声しか聞こえていない内は、敵の攻撃までまだ間がある。機銃の発射音が混じり始めた時が勝負だな) コートニーは、これまでの戦闘で得た経験をもとにこれからの動作を考えながら、尚も指令を待ち続ける。 艦深部から伝わるの振動は、それからしばしの間変わらなかった。 ライフジャケットを着込んだ体が異様に熱く感じ、彼の顔に汗が流れ始めた時、耳元にそれまでの物とは異なる物音が聞こえ始めた。 (機銃の発射音……来るな!) コートニーはそう確信した。 直後、ヘッドフォンに航海長の声が響いた。 「取舵!」 「取舵!アイ・サー!」 コートニーは胸元のマイクにそう返しながら、舵輪を心持ち左に回す。 (定石通りに行くか……妥当だな) 彼は艦長の判断に適度な感想を添えた。 この時、外から聞こえる喧騒がより一層大きくなったような気がした。 コートニーのいる航海艦橋からはあまり見えないが、舷側の40ミリ4連装機銃座や20ミリ機銃座が5インチ両用砲と共に全力で射撃を行い、濃密な弾幕を 展開している事は容易に想像できた。 (あんなアホみたいな弾幕を恐れずに突っ込んで来るとは……毎回思うが、シホット共も本当にガッツがあるぜ。) コートニーは敵にやや感心しながらも、両耳に全神経を傾け、次の指示が下るのをひたすら待つ。 アンティータムの艦体が若干左に回頭しつつある。40秒ほどのタイムラグを置いて、艦が反応し始めた証拠である。 「取舵一杯!!」 唐突に、新たな指示が響く。 「取舵一杯、アイ!」 彼は大声で復唱しながら、舵輪を思い切り回した。 重い鉄製の舵輪を2周、3周と回しまくる。程無くして、舵輪の動きが止まった。 コートニーはアンティータムの舵を限界まで左に向けさせていた。それから10秒後、アンティータムの艦体が右に傾き始めた。 (外れてくれよ!) コートニーは心中でそう思った。 この瞬間だけは、ベテランである彼と言えどもかなり緊張する。 運が悪ければ、爆弾が艦橋に命中してしまう事もある。そうなれば、コートニーは艦橋もとろも吹き飛ばされてしまうであろう。 (この瞬間だけは毎度毎度、生きた心地がしないな) 彼は内心そう思いながら、敵の爆弾が外れてくれることを切に願い続ける。 程無くして、至近弾が落下したのか、爆発音と共に艦体が揺れ始めた。 揺れ自体は強い物の、彼は振動からして命中弾を浴びていないと確信した。 それが合図であったかのように、艦の前部付近、または後部付近から幾度となく振動が伝わって来る。 (5発は落ちて来たな。) コートニーは振動の伝わる回数を数えながら、次の指示を待つ。 更に左舷中央部付近から至近弾炸裂の振動が伝わる。ダメージを受けたのか、ブザーが鳴り響くが、体感からして直撃弾を受けたようには感じられなかった。 (至近弾で浸水か何かが発生したか。まぁ、それぐらいなら大した傷ではない) コートニーがそう思った直後、それまでの振動は明らかに異なる衝撃が伝わった。 その瞬間、強烈な爆裂音が鳴り響き、彼は一瞬、自分の体が床から跳ね飛ばされたのかと錯覚した。 「!?」 コートニーはその衝撃に驚きながらも、心の中ではやられたと思った。 「左舷後部付近に直撃弾!火災発生!!」 スピーカーから被弾した事を伝える声が響き渡った時、航海艦橋の中で誰かが罵声を放った。 「舵戻せ!面舵一杯!」 「舵修正、面舵一杯!アイ・サー!」 ヘッドフォンから伝わる新たな指示に従い、コートニーは右に舵輪を回し始めた。 舵輪の動きは先と変わらず、彼は渾身の力を込めて舵を切っていく。 いつの間にか、顔には大粒の汗が滲んでおり、軍服は流れ出る汗で濡れていたが、コートニーは気にも留めなかった。 「今の回頭で陣形が乱れたかもしれんが、護衛艦もかなりいるからなんとか被害を抑えられる筈だ。」 彼はそう呟きながら、護衛艦群の奮闘を心の底から期待していた。 アンティータムは左回頭を止めた後、今度は右回頭を行い始めた。 外の様子が分からないコートニーは、ただただ味方艦の奮闘を祈りながら舵輪を回すしかないが、それでも、彼はアンティータムが致命傷を受ける事は 無いだろうと思っていた。 爆弾を受けたアンティータムは、被弾箇所から白煙を引いていたが、それでも舷側の機銃座と両用砲は健在であり、激しい対空砲火を放っていた。 外からの喧騒は相変わらずであり、航海艦橋内も相変わらずやかましいが、コートニーとって、それは艦がまだまだ元気一杯であるという証と感じており、 さして不安を抱いていなかった。 だが、敵の次の出方を考えると、弱い不安感も徐々に強くなっていく。 (爆撃隊があれで終わりとなると、次は雷撃隊が来るな……うまく数を削れていればいいが) コートニーはそう思いながら、先ほどと同じように指示を待ち続ける。 「舵戻せ!舵中央!」 「舵中央、アイ・サー!」 コートニーは再び指示に従い、舵輪を左に回し、適切な位置で固定する。 アンティータムは右回頭をやめ、直進に戻り始めた。 直後、後部付近から2度、前部付近から1度、至近弾落下の振動が伝わって来た。 (まだ爆撃隊が残っていたか。まさか、思いのほか、敵騎を削れていないのか?) 彼はふと、そう思った。 だが、コートニーがしばしの考えに頭を巡らせる暇もなく、次の指示が飛ぶ。 「取舵一杯!急げ!!」 「取舵一杯!アイ!」 彼は早口で返してから、直進に戻したばかりの舵を再び左に切っていく。 程無くして、舵輪がストップし、アンティータムの舵は完全に左に向けられた。 だが、今回は先とは違い、大回頭前にやや舵を切る事も無かったため、舵の効きは明らかに遅かった。 (くそ、敵機はどのような感じで襲ってきているんだ?こういう時は、銃座の連中が羨ましくなるぜ) 彼は、戦況を終始把握できる部署にいる同僚達を心底羨ましがった。 心なしか、機銃の発射音が一段と激しくなったように感じた。 舵を切ってから40秒ほどが経ち、ようやくアンティータムの艦体が左に回頭を始めた。 回頭中も、両用砲や機銃座は激しく撃ちまくっている。 今頃、アンティータムの上空は高角砲弾の炸裂煙と機銃の曳光弾で埋め尽くされているであろう。 (いや、あるいは海面スレスレを行く雷撃隊を狙っているかもしれんな) コートニーは心中で呟いた。 直後、その心の呟きを証明する事態がアンティータムに襲い掛かった。 唐突に、下から突き上げるかのような衝撃が伝わって来た。 航海艦橋の同僚や上官数名が、文字通り床から跳ね飛ばされてしまった。 コートニーは衝撃に負けてなるかと、必死に舵輪を掴む。 彼は辛うじてこの衝撃に耐え、舵輪も話す事は無かったが、息つく暇もなく、新たな衝撃が艦体を揺さぶる。 その直後、別の衝撃が伝わった。 矢継ぎ早に伝わる凄まじい衝撃に、コートニーは耐え切れず、床に転倒してしまった。 「!?」 床に思い切り背中を打ち付けた彼は、思わず顔を歪めてしまった。 強い痛みに息が止まりかけたが、コートニーはそれに耐え、無理やり体を起こそうとした。 だが、必死に起き上がろうとする彼を嘲笑うかのように、更なる衝撃が加わる。 今度は右舷方向から伝わって来た。衝撃は今までで一番強く、彼は体をつっ転がされ、艦橋の左側の側壁に頭からぶつかってしまった。 ヘルメット越しとは言え、その衝撃は弱くなく、彼は一瞬だけ脳震盪を起こし、気絶した。 気が付くと、彼は同僚に引き起こされていた。 「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!!」 「ア……あぁ。」 「俺が分かるか?頭は痛くないか?」 「ああ、わかる。分かるぜ……くそ、頭がふらふらして気持ち悪い……」 コートニーは無性に吐き気を感じたが、次の瞬間、彼はハッとなり、よろけながらも操舵輪にしがみつこうとした。 「そうだ……艦を……アンティータムを操らなければ!」 使命感に駆られたコートニーは、先程と同じように艦の操作に専念しようとしたが……そこで、彼は違和感に気付いた。 「……おい。行き足が落ちてるぞ。それに、船も傾いている。まさか……魚雷を食らったのか。」 「ああ。左舷側に3本、右舷側1本食らったらしい。恐らく、機関部は前部、後部共に酷い事になっているかもしれん。」 「なんてこった……」 コートニーは、驚きのあまり目を見開いた。 「アンティータム被雷!行き足、止まります!!」 「最悪だ……!」 5インチ砲の観測口から戦闘の推移を見守っていたハートレット少尉は、敵雷撃隊の猛攻でアンティータムが被雷し、左舷に傾斜しながら停止する様を 見て顔を青ざめていた。 敵雷撃隊の削りは想像以上に上手く行っていた。 陣形の左側から侵入した雷装のワイバーンは19騎だったが、対空砲火によって14騎を撃墜しており、この少ない数なら魚雷の命中率を考えても、 アンティータムは致命傷を受け難いと考えていた。 だが、敵ワイバーン隊は回頭しつつあったアンティータムまで、500メートル以内に接近してから魚雷を投下した。 5騎のワイバーンは投雷後に3騎が撃墜された物の、海面を走る5本の魚雷は扇状にアンティータムに迫り、うち、3本が左舷中央部並びに、左舷後部付近に 命中して水柱を噴き上げた。 この被雷でアンティータムは大幅に速度を落としたが、そこにダメ押しとばかりに、右舷側から放たれた魚雷が右舷中央部付近に命中した。 この魚雷は、右舷側を航行する僚艦シャングリラを狙って放たれた物であったが、シャングリラが回避した事で外れ弾となっていた。 だが、この外れ弾が運悪く、アンティータムに命中してしまった。 被雷後、アンティータムは飛行甲板と左右両舷から煙を吹き出し、洋上に停止してしまった。 「アンティータムの状況からして、機関部を相当やられているな……機関部が死ぬと、満足に消火作業も行えんし、浸水を食い止める事も出来なくなる。 奇跡が起きない限り、アンティータムは助からんかもしれんな……」 ハートレット少尉は険しい表情浮かべながらそう独語する。 目線をアンティータムから離し、そこから右舷800メートルほどの海域にいるもう1隻の空母に向ける。 「シャングリラも手荒くやられているようだな。あっちも魚雷を食らったのか、動きが止まっているが、火災も酷い様だな。」 ハートレット少尉はそう呟きながら、首元に下げていた双眼鏡を使ってシャングリラの状況を確認する。 シャングリラは右舷に傾斜しており、飛行甲板の前部と中央部から濛々たる黒煙を吐き出している。 シャングリラの詳しい状態はまだ分かっていないが、控えめに見積もっても、今回の海戦で戦い続ける事が出来ない程の損害を受けた事は、ほぼ確実のようであった。 午前11時15分 レビリンイクル沖北北東300マイル地点 TG58.2が猛攻を受けている中、TG58.1も敵編隊との間で激しい戦闘を繰り広げていた。 「リプライザルに敵ワイバーン急降下!」 フレッチャーは、旗艦ミズーリの艦橋からリプライザルに向かう8騎の敵ワイバーンを見つめていた。 「敵も上手いな……リプライザルは爆弾を食らうかもしれんぞ。」 彼は敵の練度の高さに感心しつつ、目線をリプライザルに移す。 リプライザルは敵の狙いを外すため、左舷に回頭を行い始めていた。 猛烈な対空弾幕の中、敵編隊は4騎が撃墜されるも、残った4騎が爆弾を次々と投下した。 驚くべき事に、最初の爆弾はリプライザルの飛行甲板中央部に過たず命中した。 リプライザルの飛行甲板が爆炎が吹き上がる。直後、左舷前部付近と右舷側後部付近に高々と水柱が立ち上がる。 敵騎の投下した爆弾は、2発が至近弾となったようだ。 最後の爆弾はリプライザルの飛行甲板後部に命中し、これまたど派手な爆発が起こり、リプライザルの飛行甲板が黒煙に覆われていく。 そこに、生き残ったワイバーン7騎が超低空からリプライザルに向けて殺到していく。 傍目から見れば、被弾損傷した空母が煙を吐きながら、最大の脅威である敵雷撃隊から必死に逃れようとしている風にも見える。 旗艦である戦艦ミズーリも僚艦の手助けを怠る事無く、右舷側にあるありったけの高角砲、機銃を撃ちまくっている。 フレッチャーの居る艦橋内にもその発射音は常に響き続けており、非常に喧しい。 掩護を受けるリプライザルも、舷側の単装両用砲と機銃を撃ちまくり、敵騎の阻止に努めている。 2騎が被弾し、海面に叩き付けられた。 更に1騎が40ミリ機銃の集束弾を受けてバラバラに引き裂かれた。 1騎、また1騎と撃墜されていくが、ワイバーンは仲間の犠牲なぞ知らぬとばかりに、リプライザルに向けて突進していく。 海面は高角砲弾の炸裂と機銃弾の弾着で常時泡立っており、まさに地獄の様相を呈している。 「魔法障壁の効果もとっくに切れているのに、尚も突っ込み続けるとは……いつもながら思うが、敵も大した物だ。」 フレッチャーがそう呟いた時、生き残った3騎のワイバーンが一斉に魚雷を投下した。 魚雷は回頭中のリプライザルに迫っていく。 3本中、2本は艦尾方向に逸れていったが、1本はリプライザルの左舷後部に命中した。 水柱が吹き上がると同時に、艦橋内でどよめきが起こる。 だが、装甲空母として建造されたリプライザルには1本程度の被雷は充分許容範囲内であり、水柱が崩れ落ちた後もなお、高速で洋上を疾駆していた。 いつの間にか、リプライザルを覆っていた飛行甲板の煙もすっかり吹き散らされている。 爆弾2発、魚雷1発を受けたリプライザルは、被弾前と何ら変わらぬ姿のまま対空戦闘を続けていた。 「流石は装甲空母ですな。エセックス級なら、当たり所次第で大破寸前に追い込まれていた所です。」 「本当に、あの船は頼もしい限りだ。」 ヴォーリス中佐の言葉を受けたフレッチャーは、誇らしげな口調で返答する。 「それに対して、フランクリンはあまり思わしく無いようだな。」 フレッチャーはそう言いながら、リプライザルの右舷側から見える幾つかの黒煙のうち、一際大きな黒煙に目を向ける。 「フランクリンからの報告では、既に魚雷2本と爆弾5発を受けているようです。TG58.1では、フランクリンに敵機の攻撃が集中しましたから、 損害も大きくなっております。」 「ケルフェラクとワイバーン、60機ほどに襲われたようだな。今は戦闘の下火になりつつあるから、間もなく詳細も送られてくるだろうが…… 少なくとも、フランクリンはこの海戦で使えんだろう……」 「幾ら練度が低下しようが、やる時はやる………今行われている攻撃は、まさにそうですな。」 「全くだ。ニミッツ長官も、TF58の損害状況を知れば顔を暗くするかもしれんぞ。」 フレッチャーは頷きながら、ヴォーリス中佐に答えた。 空襲はそれから5分ほどで終わり、艦隊に響いていた発砲音も次第に終息していった。 午前11時25分 第5艦隊旗艦ミズーリ 「長官。TG58.2司令部より被害報告が届きました。」 通信参謀のフリッカート中佐が務めて平静な声音でフレッチャーに伝える。 フレッチャーは口を閉じたまま、ゆっくりと頭を頷かせた。 「TG58.2は、先の空襲で空母アンティータム、シャングリラ、駆逐艦5隻、巡洋艦3隻を損傷。うち、アンティータムの被害甚大。目下、同艦は 艦の保全に努めつつあるも、現在は艦の放棄も検討中。シャングリラは8ノットでの航行が可能なるも、飛行甲板大破で艦載機の発着機能を喪失せり。 この他、駆逐艦2隻中破で後送の要有りと認む。他の損傷艦に関しては対空火力の低下が見られるも、継戦可能と判断し、戦列に留める物なり。 報告は以上になります。」 「またもや、正規空母2隻を戦列から失ったか……うち1隻は戦線離脱すら出来ずに沈むかもしれんな。」 「TG58.1の被害も含めれば、戦列から失った正規空母は、これで5隻になります。フランクリンは、後方で修理を行わぬ限り使い物になりません。」 デイビス参謀長が表情を曇らせながらそう付け加える。 TG58.1も、先の攻撃でフランクリンが大破し、駆逐艦4隻と巡洋艦2隻が損傷している。 フランクリン以外の損傷艦では、駆逐艦1隻が爆裂光弾と爆弾数発を受けた事で大破炎上し、今しがた艦の放棄が決定したとの情報が伝えられている。 その他に、駆逐艦1隻と軽巡洋艦モントピーリアが今後の継戦は不可能とされる程の損害を受け、後送が決定した。 「……総勢700機以上の航空隊から攻撃を受けたとあっては、流石に相応の損害が出てしまうか。」 「しかし、TF58はなお、正規空母10隻と軽空母7隻を擁しております。それに加え、第1次攻撃隊が現在、敵機動部隊を攻撃中です。第2次攻撃隊も、 もう少しで敵機動部隊に取っ付くでしょう。損害は少なくありませんが、戦力的にはまだ余裕があります。第2次攻撃隊の戦果次第では、敵の母艦戦力に 大きく差を付ける事も可能となるでしょう。」 「参謀長の言う通りだ。敵のストレートパンチはかなり強烈だった……が。」 フレッチャーは、自信ありげな表情を浮かべる。 「今度はこちらのカウンターパンチが命中する番だ。これで、敵のスタミナを削り切れば、この海戦の勝敗は決する事になるだろう。」
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149 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/07/25(土) 18 49 23 ID hErcdyss0 書いてみて、「やっちまったぜ(やってやったぜ)」という感じがあります。 幾らなんでもリンド王国始まりすぎ(終わりすぎ)だろという。 118 119 これを「勝利」と言えるのかどうか、作者である私も疑問なのです。 120 121 そのために、本国や転移前の満州などには燃料や弾薬が備蓄してありましたが、 全部船で運んで、人力で荷揚げしている現状では、物資の補給が追いつかないです。 122 前線の中隊長や兵は喜んでもいられますが、連隊長や軍の上層部は、損害に真っ青です。 123 ガス兵器は、風の調子で自分にも向かってくるので……。 風の魔法でもあればいいですが。 124 行軍中の怪我や病気等を含めれば、皇国も「損害」は発生していますが、戦闘では一兵も失っていませんね。 127 煉獄に突き落とされてから、地上に戻れたと思ったら地獄……といった感じでしょうか。 128 「すぐ損害無視で向かってくる」選択肢は、リンド王国的には不可能です。 無視するも何も、損害で殆ど動けないわけで、単にその場に居続けて、 皇国軍が先に引いただけで「リンド王国の勝利」と言ってるわけですので。 130 予備兵力は10万強ですが、これを使い果たしたら本当にもう後が無い訳で、 「絶対に勝てる」という状況でなければ、これを全部投入する事は無いでしょう。 131 132 皇国的には、攻勢する気は無いですね。 本気でリンド王国に攻め込もうとすれば補給線が数百km伸びる訳ですので。 133 1000mの射程に全てを賭けると、100mの射程に入ってくるまでの12分で敵戦列を全滅させねばならない訳で、 機関銃隊の負担が尋常じゃなくなる……と、私は思って書いているのですが、 実際10分あれば突撃してくる敵戦列を全滅(1分で100人殺る)させられますかね。 134 ユラ神国内では、割と好意的に受け入れられていますし、期待もされています。 が、「えっ、あれだけの弾薬をもう使っちゃったの!?」という驚きの声もあります。 135 「敵に背を向ける恐怖」があったと、もっと掘り下げて書くべきでした。 銃砲撃でまともに動けない中で、背を向けて死ぬよりも敵に突撃して死んだ方が恐怖が和らぐし、恩給も弾むと。 136 うわー。それだと皇国が詰んでしまいますね。 王が自分から敵の香車の利き筋に入ってしまって敗北してるような。 しかし軍の半分の損害を受ければ普通全滅では? 中には、本当の意味で全滅している連隊もあります。 が、逆に損害がそれ程でもない連隊もあり、それらが中心となって軍を再編しています。 150 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/07/25(土) 18 49 57 ID hErcdyss0 137 リンド本国では「前線の報告はさっぱりわからん」状態です。 リンド軍司令官は、割と正確に戦果と損害を報告したのですが、 「何でそんなに損害受けるん?」「何で勝ったのに進軍止めるん?」、 「増援が10万欲しいって言ってるけど、それって残りの全部やない?」と。 138 罠ですか。 ですが、リンド王国軍は今現在罠に引っ掛かりようが無い状態ですから。 裁判は閉廷した状態で、いつどのように開廷するかです。 139 140 皇国軍が次にどのような手を打つかはお楽しみに……。 142 敵に損害を与えたとは言え、戦略目標を失ったわけですから皇国もユラ神国も大焦りです。 143 荷揚げ効率は非常に悪いです。 沖合いに停泊して小船に移して降ろすって感じのかなり非効率な荷揚げ そのままです。 144 ユラ神国軍も弱兵ではありませんから、そういう事も可能ですね 145 146 ユラ神国は、「リンド王国軍が追撃して来ない→皇国軍の報告は真実だろう」 と考えていますので、今の所皇国に対する評価はそれなりにあります。 147 皇国は全く贅沢に弾をばら撒くもんで 対ソ連戦を戦うために、そういうふうに訓練してきましたから。 148 皇国軍にも、F世界軍にも、砲兵の近接防御用砲弾として散弾は存在しますが、使用される機会はあまりありません。 そして、皇国軍の場合は派遣軍はこの散弾は装備していません。 162 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/07/27(月) 23 50 00 ID hErcdyss0 151 その、前線付近の海岸から前線に向かう道路が、良くないのです。 列強といえども、主要港~首都~各地方の主要都市を結ぶ道路以外は、戦車やトラックが通るのは難しいのです。 また、僻地だと4頭立て馬車も通れないような道(橋)もあり、行軍は街道沿いにならざるを得ません。 152 ホバークラフトはさすがに無いです。 153 154 158 神州丸のような母艦となる揚陸艦に搭載する形の上陸用舟艇は皇国海軍も保有しています。 空母による制空権の確保が前提のため、史実の神州丸のような航空機の運用能力はありませんが。 155 156 157 勝っている戦いでも、空薬莢は必ずしも全部回収していませんから。 現代の自衛隊は「撃った数と薬莢の数が合うまでが遠足です」って感じですか。 高品質、高精度の空薬莢に驚くリンド兵という絵が浮かびました。 159 F世界側が十分発展してくれないと、重工業製品が売れませんからね。 160 両方をその時に応じて……でしょう。 友好だけでも、力だけでも、外交は進みません。 161 史実の米海軍、海兵隊並みの揚陸能力は望めませんが、皇国軍もそれなりのものは持っています。 だから、派遣軍は割合短期間で戦車や陸兵をユラの地に上陸させる事が出来ました。 ただ、輸送艦隊の多くを占める輸送船はそうは行かない通常の商船型(物資を輸送した 帰りに、ユラ神国で穀物を受け取るため)なので、その陸揚げに四苦八苦しています。 ここから、本編の続きを投下します。
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第112話 奮闘のアラスカ 1484年(1944年)1月17日 午後9時10分 トアレ岬西方20マイル地点 救出部隊旗艦である巡洋戦艦アラスカが、レーダーに移る敵艦隊を捉えたのは、午後9時を回ってからであった。 「本艦隊より北北西、方位340度方向より28ノットの速力で接近中!距離は約18マイル!」 CICのレーダー員の声が、艦内電話を伝ってアラスカ艦長、リューエンリ・アイツベルン大佐の耳に入る。 リューエンリは電話を置くなり、救出部隊・・・第57任務部隊第4任務群司令官であるフランクリン・ヴァルケンバーグ少将に報告した。 「司令、レーダー員が敵艦隊を発見致しました。」 リューエンリの報告に、ヴァルケンバーグ少将は頬をぴくりと動かした。 「どこからやって来る?」 「敵は北北西、方位340度方向、本艦隊の現針路と交錯する形で、約27ないし28ノットのスピードで迫りつつあります。 現在、我が部隊と敵艦隊との距離は、既に18マイルを割っています。」 「敵艦隊の編成は分からんか?」 「今確かめさせています。」 その時、艦内電話のベルが鳴った。 リューエンリは電話の側に素早く移動し、受話器を取った。 「こちら艦長!」 「艦長、こちらCICです。レーダー反応によりますと、敵艦隊は総勢で16隻です。うち、2隻の反応はかなり大きい。 恐らく、戦艦クラスかと思われます。残り14隻のうち、2隻は巡洋艦です。」 「分かった。」 リューエンリは受話器を置くと、ヴァルケンバーグ少将に今の情報を伝えた。 「司令、敵は戦艦2隻を含む強力な艦隊です。」 「戦艦2隻か・・・・」 リューエンリの報告に対し、ヴァルケンバーグ少将は冷静な表情で言葉を反芻する。 「こっちのほうが不利だな。」 ヴァルケンバーグ少将は呟いた。 敵の戦艦2隻に対して、TG57.4で対抗できそうなのは、アラスカのみだ。 「28ノットのスピードでこっちに向っているとなると、敵さんは新鋭戦艦を連れている場合がある。そうなると、 厳しい戦いを強いられるな。主任参謀、何か意見は無いかね?」 ヴァルケンバーグ少将は、後ろに立っている主任参謀のアーレイ・バーク大佐に言った。 「敵さんの狙いは、クリーブランドに乗り込んだ亡命者の捕縛、あるいは抹殺にあるでしょう。」 バーク大佐は明快な口調で説明を始めた。 「敵艦隊は、恐らく、我々の艦隊に亡命者が逃げ込んだ事を知らされている筈ですが、どの艦に乗り組んでいるかまでは分からないでしょう。 もし、敵艦隊が接近して来れば、敵将はこの中で一番強力で、頑丈な軍艦であるこのアラスカに的を絞って来ると思われます。そこで、 我々は一計を案じます。」 「ほう、どのようにだね?」 ヴァルケンバーグ少将は興味深そうな口調でバーク大佐に言った。 「敵艦隊が現れた後、距離14000メートルまで接近させた後、一旦北西に遁走するのです。敵戦艦2隻は、このアラスカを狙って来るはずです。 この2戦艦をクリーブランドから充分離した上で、我々は本格的な砲撃戦を行うのです。もし、敵艦が新鋭戦艦であっても、接近砲戦を挑めば、 このアラスカでも勝算はあります。」 アラスカ級巡洋戦艦は、55口径14インチ3連装砲を3基、計9門装備している。 この主砲の特徴は、長い射程距離と砲弾の初速が速い事だ。 射程距離は37100メートルもあり、新鋭戦艦であるノースカロライナ級、サウスダコタ級の装備する45口径16インチ砲よりも一際長い。 また、高初速で撃ち出される砲弾は、680キロのSHSを距離17000メートルで厚さ390ミリの垂直装甲を貫通させる事ができ、 近距離砲戦ならば、敵新鋭戦艦に対しても大きなダメージを与えられる物と見込まれている。 ただし、敵が新鋭艦であった場合、遠距離から砲弾(捕虜からの情報で、敵新鋭戦艦が16インチ相当の主砲を装備していると言う事が判明している) を命中させられれば、14インチ砲防御に留まっているアラスカ級の装甲では耐えられないかも知れない。 効果的に考えられた装甲配置や、機関のシフト配置などで、アラスカは打たれ強い艦になっている。 それでも、16インチ相当の砲弾を受けてしまえば、大損害は免れない。 「敵戦艦が2隻とも新鋭艦ならば、近付く前に砲弾を食らってしまう可能性があるな。だが、この艦に敵戦艦の注意を引き付けられるのならば、 クリーブランドに向う敵は圧倒的に少なくなるな。ミスター・バーク。君の方針で行く事しよう。」 ヴァルケンバーグ少将は、バーク大佐の提案通りに戦闘を始める事にした。 言うなれば、アラスカは引き付ける囮になるというのだ。 敵戦艦2隻がアラスカに食いつけば、巡洋艦部隊に対する圧力は弱くなる。 巡洋艦同士の打ち合いならば、アメリカ側が優勢だ。 敵の巡洋艦は2隻。この2隻は、オーメイ級かルオグレイ級、もしくは、ここ最近配備されたばかりの新型巡洋艦である可能性もある。 もし、敵巡洋艦が2隻とも新型巡洋艦であったとしても巡洋艦部隊には勝算がある。 まず、巡洋艦部隊を編成する軽巡は3隻と、敵の2隻に対して数で勝っている。 おまけに、軽巡3隻のうち、2隻はブルックリン級に次ぐ砲戦力を有したクリーブランド級軽巡であり、残り1隻のオークランドは 対空軽巡であるが、オークランドもまた5インチ連装両用砲8基16門に、21インチ4連装魚雷発射管を搭載しており、 (本来ならば、アトランタ級は連装両用砲を2門を減らし、魚雷兵装を撤廃させるという動きが海軍上層部で存在していたが、 シホールアンル側航空部隊の脅威が増した事や、水上砲戦においてシホールアンル海軍が徐々に手強くなりつつある事を考慮して、 基本兵装は以降のアトランタ級でもそのまま受け継がれている)砲の門数、魚雷数においてシホールアンル艦に勝っている。 ヴァルケンバーグ少将は、砲戦力や魚雷数で勝る巡洋艦部隊なら、自力で敵を撥ね退けられるであろうと確信していた。 「巡洋艦群が無事に現場海域から逃れるためにも、俺達が頑張らないといけないな。」 ヴァルケンバーグ少将は、艦橋にいるTG57.4の幕僚達や艦橋職員に向ってそう言い放った。 一見、悲壮さが漂いそうな言葉ではあるが、ヴァルケンバーグ少将の口調に悲壮さは無い。 むしろ、自信さえ伺えると、リューエンリは思っていた。 「CICより報告!敵艦隊が分離を開始しました!駆逐艦と思しき艦列2が増速しています!更に、敵巡洋艦2隻が増速しています!」 突如、艦橋のスピーカーにCICに詰めているレーダー員から報告が入る。 その報告を聞いたヴァルケンバーグ少将はすぐさま命令を発した。 「駆逐艦部隊は、敵駆逐艦を迎撃せよ!巡洋艦部隊は敵巡洋艦を迎撃しつつ、南方海域へ離脱せよ!」 ヴァルケンバーグ少将の命令を受け取った駆逐艦部隊、巡洋艦部隊がアラスカから次々と離れていく。 最初に砲火を交えたのは、駆逐艦部隊であった。駆逐艦部隊が分離してから10分後に、右舷側の海上で閃光が明滅する。 「敵巡洋艦2隻、我が部隊の巡洋艦群と間も無く接触します!」 CICのレーダー員が、刻々と敵味方の動きを知らせて来る。5分後、今度はアラスカの左舷側で閃光が明滅し始めた。 巡洋艦部隊も交戦を始めたのであろう。残るはアラスカと、北西より迫りつつある2隻の敵戦艦のみだ。 「艦長、敵を引き付けるために、何発か敵に撃ち込もう。」 ヴァルケンバーグ少将は、人の悪い笑みを浮かべながらリューエンリに言った。 「こっちが慌てて主砲を撃ってきたように見せるんだ。」 リューエンリはゆっくり頷いた。 「分かりました。それでは、第1射から斉射を行いましょう。司令」 彼は自信に満ちた口調でヴァルケンバーグに言った。 「我々は慌てて逃げるように装う訳ですが、相手は敵です。弾を命中させても構わんでしょう?」 リューエンリの言葉に、ヴァルケンバーグは一瞬、きょとんとした表情になるが、その次の瞬間には、面白いと言いたげに頷いた。 「うむ。構わんぞ。どうせなら、初弾命中を狙う気概で行くと良い。」 「わかりました。」 リューエンリは返事をすると、まずはCICに敵戦艦との距離を聞きだす。 「CIC。敵1番艦との距離はどのぐらいだ?」 「は。現在、距離15マイルを切りました。」 リューエンリはすかさず、航海科と砲術科に向けて指示を下した。 「28ノットまで増速する!主砲、右砲戦!目標、敵1番艦!」 アラスカの前部に設置されている55口径14インチ3連装砲2基が駆動音を鳴らしながら、北西方面より向いつつある敵戦艦に向けられる。 敵艦は右舷前方の位置にいるため、後部の射界がとれず、今のところは前部6門の砲しか使えない。 28ノットの高速で驀進しているためか、時折艦首が派手に海水を被る。艦は高速航行の影響で揺ているが、艦の動揺は意外と酷くない。 揺れはするのだが、巡洋艦や駆逐艦と違ってゆったりとしている。 アラスカの艦体は、長大な全長に比して艦幅にゆとりを持たせているため、高速航行時の動揺はある程度抑えられている。 敵戦艦から発砲炎が見えた。それから少し間を置いて、上空に光が灯った。敵戦艦の打ち上げた照明弾だ。 「測的よし!射撃準備良し!」 砲術科から弾んだ声音が聞こえて来る。 リューエンリはすぅっと息を吸い込んだ後、いつも通り、冷静な口調で命令を下した。 「撃ち方始め!」 命令が発せられて2秒後に、アラスカの前部甲板が閃光に覆われた。 ドゴォーン!という雷もかくやと思われる射撃音が、トアレ岬沖に響きわたる。 30秒ほどの時間が経って、CICから報告が入った。 「第1射、敵1番艦を夾叉!」 その報告に、艦橋がどよめいた。 第2斉射が6門の14インチ砲から放たれる。その砲弾は、勢いを付けて敵1番艦に落下した。 敵1番艦の周囲に砲弾が落下する。1発が、敵1番艦の中央部に突き刺さった。 その瞬間、敵艦の艦体から命中の閃光がほとばしった。 「敵1番艦に命中弾!」 この報告が流れた直後、艦内では歓声が爆発した。 「僅か2斉射で命中をたたき出すとは・・・・艦長、今の射撃は見事だ。」 ヴァルケンバーグ少将は、僅か2斉射で命中弾を出した砲術科員に対し、惜しみない賛辞を送った。 「は、ありがとうございます。この言葉は、後で砲術科に伝えておきましょう。」 この時になって、敵戦艦も射撃を開始した。水平線の向こう側に発砲炎と思しき閃光が闇夜を吹き飛ばす。 敵弾が飛来して来た、砲弾はアラスカを飛び越え、左舷1000メートルの位置に落下した。 「敵弾!本艦の左舷に落下!」 アラスカが第3斉射を放つ。その直後、敵戦艦2隻も第2斉射を撃った。 「敵1番艦、変針します!」 唐突に、CICから報告が入る。 「チッ、変針したか。」 リューエンリは思わず舌打ちをした。第3斉射弾は、敵1番艦の右舷に落下した。 敵1番艦がいきなり取舵を切ったため、第3斉射弾は全てかわされてしまった。 「敵2番艦も変針します!」 敵戦艦2隻は、第2斉射弾を放ちながら、左に回頭した。アラスカと敵戦艦は、自然に反航戦の形で撃ち合う事になった。 敵1番艦が回頭したお陰で、第3砲塔も敵艦を射界に捉える事が出来た。 第4斉射弾が、右舷14マイル向こうを反航する敵1番艦に向けて放たれる。 この斉射は、全て近弾となり、敵戦艦の右舷側に9本の水柱が吹き上がった。 第5斉射、第6斉射と、アラスカは9門の14インチ砲弾を放つが、なかなか敵1番艦を捉えられない。 第7斉射を放った所で、ようやく敵1番艦を夾叉した。 しかし、第8斉射を放った所で敵戦艦はまたもや変針した。 「敵艦、再度変針!」 「第8斉射弾、命中弾なし!」 その時、ヴァルケンバーグ少将はやや苦味の混じった表情を浮かべた。 「いかん、敵戦艦は本艦の後方に回り込もうとしている。奴ら、逆T字を描くつもりだぞ。」 敵戦艦2隻は、今度は南に向けて変針している。 このままだと、アラスカは前部の1番、2番主砲塔が敵艦を射界に捉えられない。 敵艦が後部に回り込めば、アラスカは後部第3砲塔の3門のみで、敵戦艦2隻の保有する10門以上の主砲と渡り合わねばならない。 敵戦艦2隻は、28ノットから27ノットのスピードで急速に南下しつつある。敵戦艦が第3斉射を撃ってきた。 アラスカの左舷側海面に、高々と水柱が吹き上がった。そのうちの1発は、アラスカの左舷200メートルの位置に着弾している。 「・・・・水柱からして、オールクレイ級戦艦か。」 ヴァルケンバーグ少将は、敵戦艦の正体を見抜いた。 オールクレイ級戦艦は14インチより若干小さめの主砲を1隻だけで8門搭載している。 今、アラスカに砲撃を加えている敵戦艦は2隻であるから、計16門の主砲に狙われている事になる。 (敵は新鋭艦ではない) ヴァルケンバーグは、敵が旧式のオールクレイ級であると知って、少しだけ安堵した。 しかし、オールクレイ級も侮れない砲戦力を有している。アメリカ海軍の戦艦は、このオールクレイ級と2度の砲戦を戦い、 2度とも勝利しているが、米側も戦った戦艦が必ず大破か、中破の損害を受けている程の難敵だ。 このまま後部に回り込まれれば、余計に不利な戦いを強いられる。 「針路180度に変針!」 ヴァルケンバーグはリューエンリに命じた。リューエンリは頷いた後、アラスカを左舷に回頭させた。 アラスカの艦体が左に回った時に、上空に照明弾が炸裂する。 闇夜から曝け出されたアラスカ目掛けて、敵戦艦の主砲弾が落下してきた。この斉射弾は、意外にもアラスカのすぐ右舷側に着弾した。 1発は、アラスカの右舷後部側100メートルの海面に落下し、32900トンの艦体を僅かに振動させた。 敵戦艦との距離は13マイル(20800メートル)まで縮まっている。 アラスカの主砲が全て左舷に向けられる。 その1分後、アラスカは第9斉射を放った。 左舷側のやや斜め上に相対する形となった敵戦艦に、9発の14インチ砲弾が殺到する。 変針後の修正射撃と言う事もあって、第9斉射弾は全て敵戦艦を飛び越える。 28秒後に第10斉射が放たれる。この斉射弾は、またもや敵戦艦を夾叉した。 リューエンリは、内心で喜んだ。しかし、その喜びも長くは続かなかった。 「て、敵戦艦更に変針!」 敵戦艦2隻は、またもや針路を変更した。そのせいで、第10斉射弾は敵戦艦の左舷に落下し、9本の水柱を吹き上げた。 「くそ、また後部に回り込むつもりか!」 リューエンリは、珍しく苛立ったような口調で言う。 敵艦は、アラスカの後部を狙う形で右舷に回頭している。 「変針!針路270度!」 ヴァルケンバーグはすかさず命じた。 「変針!針路270度!」 「針路270度、アイアイサー!」 命令を受け取った操舵手が、艦を右に回頭させるために、ハンドルを思い切りぶん回す。 アラスカの巨体が、右に振られ始めた時に、再び敵戦艦の斉射弾が降り注ぐ。 敵艦の斉射は、アラスカの後方300メートルに落下しただけであったが、アラスカの乗員達は、思うような射撃が出来ぬ 自分達に対して、シホールアンル艦が挑発しているかのように思えた。 アラスカが針路270度に乗った時、敵戦艦2隻もちょうど回頭を終えていた。 敵戦艦がアラスカの上空に照明弾を打ち上げた後、第5斉射を放ってきた。 16発もの砲弾が、アラスカの右舷側海面に落下する。 多量の水柱が、敵戦艦の姿を一瞬だけ掻き消した。 アラスカが第11斉射を放つ。第11斉射は、変針後の射撃にもかかわらず、見事に敵戦艦を夾叉した。 (これで夾叉は3度目だ・・・・また貴様は逃げ回るのか?) リューエンリは、夜闇の向こうの敵船に向けて、心中で問いただす。 敵戦艦は、こちらが夾叉や、命中弾を得るたびに変針を繰り返している。 今度もまた、敵は変針するかもしれない。 第11斉射からきっかり28秒後に、第12斉射が放たれた。 9発の14インチ砲弾は・・・・またもや敵戦艦を外れた。 「第12斉射弾、全て遠弾です!」 「くそ・・・・また外したか!」 リューエンリは拳を強く握り締めた。 遠弾とは、主砲弾が敵艦の向こう側に飛び越して弾着した事を言う。 先ほども、敵戦艦は変針を行い、アラスカの主砲弾を全てかわしている。 「また針路を変更するつもりか。」 ヴァルケンバーグが言う。その口調には、ややうんざりしたような響きが含まれていた。 だが、敵戦艦は変針しなかった。 「CICより艦橋!敵戦艦、距離を詰めてきます!現在、距離は19000!」 その報告に、ヴァルケンバーグはほうと唸った。 「どうやら、敵の指揮官は勝負に出たようだな。艦長、いよいよ殴り合いが始まるぞ!」 ヴァルケンバーグは、ドスの効いた声でリューエンリに言った。 「はっ!この勝負、受けて立ちます!」 リューエンリがそう言った直後、アラスカが第13斉射を放つ。同時に、敵戦艦2隻も斉射弾を放った。 アラスカの第13斉射弾は、敵戦艦の手前で落下する。 それと入れ替わりに、敵戦艦から放たれた16発の砲弾が、アラスカに降り注いだ。 左舷側に16本の水柱が吹き上がる。 うち3発は、アラスカの左舷60メートルという近距離に落下し、アラスカの巨体が水中爆発の衝撃波に揺さぶられた。 アラスカが第14斉射を放つ。この斉射弾は、敵1番艦の周囲に落下し、1発が後部甲板に命中した。 命中の戦艦、砲弾炸裂の閃光によって、敵1番艦の艦影がおぼろげながらも、闇夜から浮かび上がる。 「敵1番艦に命中弾!敵艦は火災発生の模様!」 「よし!」 リューエンリは、その報告に満足そうな表情を表した。 アラスカが第15斉射を放つ前に、敵戦艦2隻が斉射を撃って来た。 第15斉射が行われた6秒後に、アラスカの左舷側に水柱が吹き上がる。一呼吸置いて、更なる敵弾落下が起こった。 この時、アラスカの右舷側に3本の水柱が立ち上がった。リューエンリは、その水柱を見るなり、顔を強張らせた。 「夾叉された・・・・!」 16発中、13発は左舷側に、3発は右舷側に立ち上がっている。 敵1番艦か2番艦のいずれかがこのアラスカを夾叉したのだ。 水柱が崩れ落ちていく。この時、水平線の向こうで発砲炎とは違う閃光が煌いた。 「敵1番艦に2弾命中!」 アラスカの14インチ砲弾は、9発中2発が敵1番艦に打撃を与えていた。 「艦長。いいぞ、その調子だ。」 ヴァルケンバーグが余裕の笑みを浮かべて、リューエンリに言って来る。 「敵1番艦に対して、アラスカは有利に立っている。このまま行けば、敵1番艦を早く仕留められるぞ。」 「は、ありがとうございます。」 ヴァルケンバーグに対して、リューエンリはそう返事した。アラスカの第16斉射が放たれる。 この斉射弾は、惜しくも全てが外れてしまった。 それに対して、敵戦艦のうち、2番艦が撃ち返してきた。 「ん?敵1番艦はどうして一緒に撃たない?」 ヴァルケンバーグは、一瞬だけ敵1番艦が気になった。敵1番艦は、必ず2番艦と一緒に主砲を放って来た。 しかし、先の斉射で、敵1番艦は主砲を発射しなかった。 ヴァルケンバーグの疑問は、瞬時にして氷解した。 敵2番艦が発砲して20秒後に、敵1番艦が主砲を発射した。いきなり、アラスカの周囲にドカドカと砲弾が落下する。 ガァーン!という衝撃音が鳴り響き、アラスカの艦体が激しく揺れた。 「右舷中央部に敵弾命中!右舷2番両用砲損傷、火災発生!」 被害報告がすぐさま艦橋に届けられた。リューエンリは、すぐにダメコン班を艦内電話で呼びつけ、消火を命じた。 アラスカの第16斉射弾が弾着すると同時に、敵1番艦の斉射弾が降り注ぐ。 周囲に8本の水柱が吹き上がる。アラスカの艦首が、水柱を強引に踏み潰して突き進んでいく。 CICが、2発命中したと艦橋に伝えた瞬間、新たな斉射弾がアラスカに降り注ぐ。 新たな1発が、アラスカの後部甲板に突き刺さる。 この13ネルリ砲弾は、アラスカの後部甲板に命中するや、最上甲板を突き破り、そのすぐ下の甲板で炸裂して火災を発生させた。 敵2番艦が放った斉射弾の水柱が崩れ落ちる前に、アラスカが第17斉射を放つ。 その10秒後に、敵1番艦からの斉射弾が落下して来た。 「奴ら、交互に射撃して、こちらの弾着観測を妨害しようとしている。」 ヴァルケンバーグは、怜悧な口調でそう言った。 敵戦艦は、先ほどまで40秒おきに主砲弾を放っていた。 それが、今では2隻が20秒おきに、交互に射撃を繰り返している。 一方、アラスカは9発の14インチ砲弾を28秒おきに9発発射しているが、次の斉射に入るまで、艦の周囲には敵弾の 吹き上げた水柱で覆われ、視界を塞がれている。 普通の光学照準射撃を使用していたなら、この林立する水柱によって、射撃はやりにくくなっていただろう。 敵戦艦は、アラスカの射撃精度を悪化させるために、交互射撃を行っているのだ。 しかし、 「敵1番艦に3弾命中!」 アラスカの射撃精度は、全く劣らなかった。 「こちらにはレーダーがある。そのような小細工は通用せんぞ。」 ヴァルケンバーグは、2隻の敵戦艦に対して、自信に満ちた口調で言い放った。 第18斉射が放たれた直後、敵1番艦の射弾が落下して来た。 先の弾着で吹き上がった水柱は崩れ落ち、視界は開けていたが、またもや水柱が吹き上がって視界が悪くなった。 「右舷中央部に命中弾!40ミリ機銃座損傷!」 被害報告が入って来る。リューエンリはすぐに対処を命じたが、 (ん?敵1番艦の射撃は、さっきもこんな物だったか?) 彼はふと疑問に思った。 13ネルリ弾8発が周囲に落下すれば、いくら堅牢に作られているアラスカといえども地震にあったかのように揺さぶられる。 その振動が、今回は幾らか小さいように思えた。 「敵1番艦に2弾命中!」 CICから弾着の結果報告が入る。リューエンリは、水柱の間に移る艦影から爆炎のような物が吹き上がるのを見た。 水柱が崩れ落ち、アラスカの視界が再び良くなる。彼我の距離は18000メートルまで縮まっている。 このため、艦橋からも遠くの敵艦を辛うじて識別出来た。 敵1番艦は、後部から大火災を起こしていた。アラスカの14インチ砲弾を受けた影響であろう。 敵2番艦の射弾が落下する。新たな衝撃音が、後部から聞こえて来た。 「第3砲塔に命中弾!」 報告は、そこで区切られる。 「砲塔か・・・・」 もし、砲塔が使用不能になれば、アラスカは6門の砲で、倍以上の砲を有する敵戦艦と戦わねばならない。 そうなれば、アラスカは一層不利になるであろう。 リューエンリは砲塔が無事であるか心配になったが、 「砲塔に損傷なし!」 やや遅れて来たその一言で、リューエンリはひとまず安堵した。 (流石は新鋭巡戦だ。防御が厚い) 彼は、自分の艦の頑丈さに感謝した。 アラスカが新たな斉射を放った。敵1番艦も同時に斉射を放つ。 よく見ると、敵1番艦は前部甲板のみで発砲を行っている。後部に発砲炎が灯る事は無く、代わりに火災炎が見えるだけだ。 「先の命中弾は、後部の砲塔を潰していたか。」 ヴァルケンバーグがそう呟いた時、敵1番艦の主砲弾が降り注いで来た。左舷側の海面に、水柱が高々と吹き上がる。 艦首最前部より7メートル後方に敵弾が突き刺さる。 その次の瞬間、閃光と共に40ミリ4連装機銃座が吹き飛ばされ、海面や第1主砲塔等に夥しい破片が撒き散らされた。 「前部甲板に被弾!火災発生!」 「ダメコン班!急いで前部甲板の消火にあたれ!!」 リューエンリが、待機しているダメコン班に指示を飛ばす。その時、アラスカの射弾が敵1番艦を捉えた。 9発中、3発が命中した。 1発は、敵戦艦の中央部に命中した。命中した14インチ砲弾は敵艦の水平装甲を叩き割って第2甲板で炸裂。 爆発の影響で魔道銃2丁と両用砲座1基が吹き飛ばされた。 2発は後部甲板に命中して、火災を拡大させた。 未だに無傷の敵2番艦が、僚艦の危機を救おうと、8門の13ネルリ砲をアラスカ目掛けて撃つ。 アラスカは、第20斉射を放った直後に、敵2番艦の斉射弾を受けた。 2発が右舷中央部に命中した。命中弾は、火災を消し止めようと奮闘するダメコン班を吹き飛ばし、健在な機銃や両用砲をずたずたに引き裂いた。 「右舷中央部に新たな被弾!火災が拡大します!」 やや間を置いて、アラスカの第20斉射弾が、敵1番艦を捉えた。 一気に4発の14インチ砲弾が、前、中、後部と、満遍なく命中した。 前部部分から、やや規模の大きい爆発が起こり、爆炎の中に細長い物が舞い上がるのをリューエンリは確認した。 敵2番艦は、第2砲塔と見られる部分と、中央部から新たな火災を吹き出した。 「新たに砲塔を1基潰したか。」 ヴァルケンバーグが小声で呟く。そろそろ、艇1番艦が撃ち返すか、と思われたが、いつまで経っても敵1番艦は主砲を撃たない。 2番艦だけは、規則正しく、40秒おきに主砲弾を放っている。 何故か、この斉射弾は全て空振りに終わった。 40秒が経って、敵2番艦は再び斉射を行うが、これもまた外れる。その間、敵1番艦はずっと沈黙したままだ。 (敵1番艦もだが、2番艦は一体どうしたんだ?) ヴァルケンバーグには、何故か敵2番艦が動揺しているように感じられた。 「敵1番艦、変針します!」 いきなり、CICから思いがけぬ報告が飛び込んで来た。 「変針だと?確かか?」 「はい、確かです。しかし、2番艦は相変わらず現針路を維持しています。」 「巡洋艦部隊より報告、我敵巡洋艦との交戦終了、敵巡洋艦1隻撃沈、1隻撃破せり。損害はオークランド被弾7発で砲塔3基使用不能。 機関損傷無し。クリーブランド5発被弾するも損害軽微。」 「ふむ、巡洋艦群はなんとか打ち勝ったようだな。」 ヴァルケンバーグは、巡洋艦部隊が敵に快勝をした事に満足した。 1分後には駆逐艦部隊からの報告も入る。駆逐艦部隊は、相手側に1隻を撃沈され、3隻大破、2隻を中破させられたが、 逆に敵艦3隻撃沈、5隻を撃破して相手を追い払った。 「司令、どうやら敵1番艦は主砲が全て使えなくなったため、後退を決意したようです。残るは、敵2番艦のみです。」 リューエンリの言葉を聞いたヴァルケンバーグは、頷いてから次の指示を下した。 「目標変更!次なる目標は敵2番艦、測的始め!」 リューエンリは、新たな目標にアラスカの主砲を合わせた。 無傷の敵2番艦が更なる斉射弾を加える。新たに1発が、アラスカの第1砲塔に命中する。 天蓋に着弾した敵弾は、あらぬ方向に跳ね飛ばされていった。 「射撃準備良し!」 「砲術長、斉射で決めるぞ!」 「わかりました!」 リューエンリは、艦内電話で砲術長に確認を取った後、敵2番艦に対する射撃を開始した。 「撃ち方始め!」 敵2番艦に対して、55口径14インチ砲9門が斉射弾を放った。敵2番艦も13ネルリ砲8門を咆哮させる。 敵2番艦の左舷側海面に9本の水柱が立ち上がる。その水柱によって、敵2番艦は視界を妨げられた。 一方、敵2番艦の射弾は、またもやアラスカを捉えていた。 「右舷中央部に命中弾!右舷射撃レーダー全壊!」 敵の放った13ネルリ弾8発のうち、1発が煙突のやや右斜め上に配置されていたMk37射撃指揮装置を根元から粉砕した。 破片は、アラスカの特徴である変わった1本煙突右側の下半分の表面を、破片の突き刺さった醜いあばた面に変えてしまった。 この時点で、彼我の距離は17000メートル台にまで縮まっていた。 28秒後にアラスカが斉射弾を放つ。 今度は1発が、敵戦艦の中央部に命中した。 命中の瞬間、敵の艦影がオレンジ色に染まり、中央部から爆炎と共に、夥しい破片が吹き上がった。 「夾叉弾を得ないですぐに命中弾か。やるな。」 ヴァルケンバーグ少将が、小声でアラスカの射撃を評価する。 リューエンリはそれが聞こえていたが礼を言うのは後にしようと思い、何も言わなかった。 敵戦艦が斉射を放つ。その8秒後にアラスカが第3斉射を撃つ。 互いの砲弾が上空で交錯し、それぞれの目標に向けて落下していく。 アラスカには2発、敵2番艦には1発が命中した。 2発のうち、1発は艦尾に命中し、艦尾側にあった2基の40ミリ4連装機銃がばらばらに打ち砕かれた。 もう1発は第2砲塔のすぐ目の前で命中し、炸裂したが、表面をささくれ立たせただけで被害は軽微であった。 一方、敵戦艦には、1発が命中している。この命中弾は、敵戦艦の第3砲塔の天蓋に命中した。 14インチ砲弾は天蓋を貫通し、砲塔内部で爆発した。 爆発の直後、天蓋は左右にめくれ上がり、砲塔自体が旋回板から外れてしまった。 敵2番艦が応戦するが、アラスカの艦橋からは、敵2番艦が明らかに砲力を減少している事が分かった。 アラスカの左舷側海面に、6本の水柱が立ち上がる。敵2番艦の斉射弾は、アラスカを捉える事が出来なかった。 「よし、まずは砲塔1基」 その時、CICから切迫した声が艦橋に響いて来た。 「司令!巡洋艦部隊から緊急信です!我、敵戦艦の攻撃を受ける!」 その報告に、今まで冷静に務めていたヴァルケンバーグは、初めて戸惑いを見せた。 「敵戦艦・・・・だと?」 「その報告は確かか!?」 「はい。間違いありません!巡洋艦部隊は敵戦艦と交戦しています!」 「なんてこった・・・・・!」 リューエンリはやられたと思った。 「司令、早くこの2番艦を討ち取って、巡洋艦部隊の救援に向わねば。」 「駆逐艦部隊が残っているだろう。通信参謀、各駆逐隊に緊急信!各駆逐隊は速やかに巡洋艦部隊の援護に当たれ!」 ヴァルケンバーグがそう命じた直後、後部から強い衝撃が伝わって来た。 「ぐ・・・・!」 リューエンリとヴァルケンバーグは、その衝撃になんとか耐えた。 少しばかりの間を置いて、被害報告が入ってきた。 「第3砲塔に敵弾命中!第3砲塔は使用不能の模様!」 「なっ・・・・!」 彼は、ヴァルケンバーグと顔を見合わせていた。砲塔がやられた。そうなると、まず思い浮かぶのが弾薬の誘爆である。 いくら頑丈な戦艦とはいえ、砲塔内部を叩き割られ、更に、下部の弾薬庫を誘爆させられれば、たちまち轟沈だ。 「砲塔はどうなっている?破壊されたのか!?」 リューエンリはすかさずダメコン班に聞き返した。 「敵弾は砲塔の真正面と、砲塔と甲板の繋ぎ目に命中したようです!砲塔自体は無事ですが、砲身と装填機構、旋回盤に 異常が出て、目下使用不能です!」 敵2番艦の放った13ネルリ弾は、2発が第3砲塔に命中していた。 命中した弾のうち1発は、砲塔の正面、1番砲と2番砲の間に命中して炸裂した。 砲塔の正面装甲は貫通できなかったが、3本の砲身が強烈な爆風と破片に歪められ、真っ直ぐに弾を撃ち出せなくなっていた。 2発目は第3砲塔右側の砲塔と甲板の繋ぎ目に命中して炸裂した。 この瞬間、砲塔の旋回盤が衝撃で歪み、砲の旋回自体が出来なくなっていた。 更に、この立て続けの被弾によって、砲塔内部の装填機構が故障してしまった。このため、第3砲塔は1発の砲弾も撃てなくなっていた。 残り6門となった主砲が咆哮する。 6発中、1発が敵2番艦の後部に命中した。敵艦の後部に高々と爆炎と破片が吹き上がる。 アラスカが第5斉射を撃った。 この時、互いの距離は17000メートルを切ろうとしていた。 6発放たれた砲弾のうち、2発が敵2番艦に命中する。 敵2番艦も命中弾を浴びる前に斉射弾を叩き出す。 砲弾の飛翔音が近付いてきた、と思った直後、アラスカの周囲に水柱が立ち上がり、新たな衝撃が32900トンの艦体を揺さぶる。 「右舷中央部及び後部艦橋に命中弾!火災発生!」 被害報告が艦橋に伝えられた直後、巡洋艦部隊から新たな報告が入った。 「軽巡クリーブランドより入電!敵戦艦の砲撃でオークランド被弾炎上!我、敵戦艦より砲撃を受ける!」 リューエンリは、一瞬悔しげな表情を浮かべる。 (巡洋艦部隊が第3の戦艦と撃ち合っているのに、俺達は敵2番艦に梃子摺っている。早く、奴を仕留めなければ!) リューエンリの心に、焦燥の念が生まれ始めた。 アラスカが咆哮する。リューエンリの焦燥が砲撃に現れたかのように、アラスカの射弾は敵戦艦を捉えられなかった。 「砲術!何をやっとるか!しっかり狙え!!」 リューエンリは思わず、砲術科を叱咤する。敵2番艦が斉射弾を放って来る。 やや間を置いて、アラスカの左右両側に水柱が立ち上がり、ついで艦体に衝撃が伝わる。 リューエンリには、まるで、敵2番艦がこのアラスカを味方の救援に行かせないとしきりに訴えているかのように思えた。 「前部甲板に被弾!火災発生!」 「くそ、敵もなかなかだな。」 ヴァルケンバーグが忌々しそうな口調で呟く。 それを払拭してやるといわんばかりに、アラスカが新たな斉射を撃った。 敵2番艦に向けて、6発の砲弾が降り注ぐ。そして、6発のうち、1発が敵2番艦に命中した。 命中箇所は、敵2番艦の前部部分、詳しく説明すると、第2砲塔のすぐ左側であった。 アラスカ級巡洋戦艦は55口径14インチ砲という長砲身砲を搭載している。 680キロの14インチ砲弾は、この主砲によって、秒速870メートルという高初速で撃ち出される。 敵2番艦の主要防御区画は、この14インチSHSによってあっさりと撃ち抜かれ、最上甲板より下層の弾薬庫まで達し、そのエネルギーを解放した。 唐突に、敵2番艦が艦橋の前から閃光を発した。 そのまばゆい光に、アラスカ艦橋にいたリューエンリとヴァルケンバーグ、その他の艦橋要員、そして見張り員は、一瞬にして視力を奪われた。 「うわ・・・!」 リューエンリの耳に、誰かがうめく声が聞こえた、と思った瞬間、雷もかくやと思えるような大音響が耳に飛び込んできた。 視力はすぐに回復した。 リューエンリは、自分の目に移った光景を見て、最初は茫然としていた。 今さっきまで、激しく殴り合っていた敵2番艦が、前部部分から大火災を起こして這うような速度で航行している。 その巨大な火災炎は、すぐ後ろの艦橋をも飲み込もうとしている。 敵2番艦の前部にあった2基の主砲塔は、1基が完全に消し飛び、もう1基はあらぬ方向砲身を向けていた。 それに加えて、敵2番艦は艦首を大きく沈み込ませている。ダメージが艦の深部にも行ったのであろう。 敵2番艦が戦闘力、いや、船としての力すら無くしかけている事は誰の目から見ても明らかだ。 「敵2番艦沈黙!」 その報告を聞いたリューエンリは、ようやく我を取り戻した。 「艦長、このアラスカも大分やられたな。」 ヴァルケンバーグ少将がリューエンリに言って来る。 「そうですな。この様子じゃ、少なめに見積もっても中破確定です。」 「確かにな。だが、今はここでのんびりしておれんぞ。」 ヴァルケンバーグはそう言うなり、次の命令を下した。 「巡洋艦部隊の救援に全速で向う!針路180度に変針!」 「取舵一杯、針路180度!全速前進!」 命令を受け取った航海科は、アラスカを左に回頭させる。 回頭後、アラスカは機関を全力発揮させた。 バブコック&ウィルコックス缶8基のボイラーが180000馬力の最大出力を叩き出し、32900トンの巨体を、 時速32・5ノットという高速で航行させる。 白波を派手に蹴立てながら、アラスカはひたすら南、目の前で明滅する閃光に向けて疾走して行った。